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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「心配しなくても、ラットルの力量じゃホーリーシンボルは1日1発が限度。もう食らう事はないんじゃない」
「ホーリーシンボル?」
「あ、知らないのか…寝てたから」
このティアという娘が露骨に向けてくる侮蔑。和らぐ日は来るのだろうか。

年長者には敬意を払え、などと説教する気はアレフにはない。かつて、30倍どころか数百倍は長生きしている者達に若造呼ばわりされ、それでも負けまいと互して討論していた過去を振り返れば、何か言える筋合いでもない。
だが…ため息はもれる。

とはいえ
弁明の余地がない以上、ティアの態度を改めさせるより、合わせる方が賢明か。
「そのホーリーシンボルという術について、無知で浅学菲才の身を啓蒙していもらえますか?」
「あー、難しい言葉をわざと使って、あたしをバカにしてるでしょ」
「まさか」ばれたか。
対ヴァンパイア用の切り札なら、当の相手に極意を教えるはずがない。たとえもう、テンプルの者でないとしても、軽々しく奥義は口にはしないだろう。

「結び目を解く力よ」
答えなど期待していなかっただけに、ティアの言葉に驚いた。
「その体、触れるけど実体じゃないんでしょ。その証拠に影が無い。
物質世界に力を及ぼす為の道具って意味では生身の体と同じだけど、本体は精神世界にある。だから年をとらないし、その体を破壊してもすぐに再生しちゃうし、わずかな量の血で維持できる。違う?」

「ヤワな半実体だから、陽光ごときで焼けちゃうし、水の流れにもっていかれそうになる。そんな不安定な体と精神世界の本体を繋いで、なんとか存在させているファラの邪法を『結び目』に見立てて…それを術者の精神力で解いちゃうのがホーリーシンボル。不死化に使われた方陣を反転させた破魔の形が術の本質、だったかな」

遠い記憶をたどってみたが、ティアが身につけている法服の紋と、セントアイランド城の地下にあった魔方陣の共通性は見出せなかった。
しかし、魔方陣は平面とは限らない。表に出ていなかった部分を図形化し反転させているのかもしれない。

「その辺にありふれてる力とか、物そのものに作用する術じゃないから」
「精霊魔法や陽の光と違って対術反射や物理結界では防げない…か」
雨の中、不意に大地から湧き出し、不死の身体を内側から焼いた白い光。細胞の一つ一つを分解される様な痛みと消耗。あれが“結び目を解く力”か。術の性質上、精神力だけでなく、本来は不死者に味方するはずの地の力も加味されていそうだ。

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