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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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走ってる馬車が楽にすれ違う広い道。両側の白い建物や街路樹に渡した綱から、店名や家紋や商品を染め抜いた色とりどりの布が垂れてる。
船長に病気のことを口止めされた時、ティアの胸を刺した痛みは、お祭りやってるみたいな大通りを見た瞬間ふっとんだ。

ここキングポートと故郷クインポートは姉妹都市。そのヨシミで東大陸との貿易が禁じられた後も、両都市の商船だけは行き来が許されてるって聞いた。確かに通りの作りとかは似てる。けど賑わいは段違い。お店が道の果てまで並んでて人も大勢。よそ者もいっぱい歩いてて、あたし達があまり目立たない。

初めて来たときは、街の事情とか分かんなかったしお金も無かった。不安の中でただ目的にしがみついて前へ進むのに夢中だった。
2度目はモル司祭のお供って立場だから好き勝手できなかったし、ウロつくより宿で拳術と法術を磨く方が大事に思えて、何も目に入ってなかった。
こんなにキレイな街だったんだ。

まずは、乾燥ハーブを売って自由になる金をつくろう。それと、教会でモルの足取り聞いて次の街までの旅費の無心…あ、ドルクにクギ刺すの忘れてた。
「今度は邪魔しないよね」
「何のことです」
「あたしとこいつが恋仲とかフカして、バフル教会からの支援うけられなくしたじゃない」
その上、倒した“なりそこない”から戦利品を頂くのもダメってんじゃ…今の立場、なんて言うんだっけ。囲い者、イソウロウ、食客?用心棒か。

「あたし教会に寄るから」
埠頭の方を…というより、船を振り返ってばかりだったアレフがあたしを見たのが何かおかしかった。怯えたり後悔するぐらいなら人を襲わなきゃいいのに。
「心配なら一緒にくれば?」
そろそろ昼前だ。人形劇をやってるかもしれない。だったら愉快な見ものになる。

クリやグミの木の上へ塔を突き出してるキングポートの教会には、貿易でもうけた商人からの寄付がたんまり集まる。毎日のようにパンを施してた。あたしが中央大陸で最初に食べたのも教会のパン。子供たちに配ってた麦芽アメももらった。もの欲しそうに見てたせいかな。もしかするとまだ子供に見えたのかも。

2年前と同じように、ボロを着た老人や松葉杖ついた人、幼児を抱いた女の人がパンのために行列してる。木陰には子供がいっぱい集まって歓声を上げてた。見習い司祭が打ち鳴らす太鼓やシンバルの音もする。日光から逃げたいのか、アレフが木陰に足を向けた。狙い通りだ。

子供たちが見つめるのは赤い布をかけた台。そこでヨロイを輝かせて手づかい人形が戦ってる。白や青の派手な法衣を着せられた手づかい人形もいる。人形劇の筋立ては単純でひとつだけ。それでも、子供たちは台の下に隠れた見習い司祭や代理教官が操る人形の戦いに夢中だ。

教会が本当に見せたいのは、麦芽アメに押された共通文字。覚えて欲しいのは最初に合唱する数え歌や、締めに唱和するテンプルの基本教義なんだろうけど。

3頭身の戦士が挑んでるのは、他の人形の倍はある黒い怪物。死人を示す緑色の顔、ガラスの目と赤く染まった口が大きく鮮やかで、牙がやけに目立つ敵役。小さな赤い舞台で演じられているのは、子供たちとあたしの夢。アレフにとっては悪夢。

フードごしに人形劇を見ている顔を、下から覗き込んでやった。酢になったワインを間違って飲んだみたいな顔してる。それが無表情に変わった。
「アレフ、覚悟!」
戦士のセリフにあたしも振り返った。捨て身で突撃する戦士。貫かれる怪物。そして司祭の人形がホーリーシンボルを唱え、白い紙ふぶきの中で黒い人形はよじれながら台の下に消える。聖女役の人形の介抱も空しく、最後はいつも戦士が死ぬ。

「…情報早いな。あたしが前に見たときはヴァンパイアの名前、ロブだったのに」
 活劇とお涙ちょうだいの人形劇のあとは、子供たちに基本教義を唱えさせる。『明けない夜はない』『人の手になるものは人によって必ず破れる』『不死者は人の命を盗む盗人にすぎない』それは前と変わらない。

でも、だれが公敵が変わったことを、この教会に伝えたんだろう。モル…違う。あいつが東大陸を離れた時、まだアレフは目覚めてなかったはず。
知り合いだったらどうしよう。その前に、あたしの見習いの資格、剥奪されてるかな?
考えてても仕方ない。事情を聞かなきゃ何も始まらない。

歩き出した直後、肩を強い力でつかまれて引き戻された。

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