「遅いじゃない…
父さん…ずっと待ってた。
殺された瞬間まで!
あたしは、そんな父さんがキライで、だいっキライで。ぐれて、家出て…ホーリーテンプルの聖女見習いになったわ。あんたを倒したくて!」
そうだ、あたしはコイツから父さんを解放したかった。
だけど、間に合わなかった。
「…街の人達が父さんに乱暴して。
止めようとしたら、あたしも ヴァンパイアの手先だって決めつけて…」
たしか火焙りにされたはず。もしかしなくても、助けてくれたのはコイツか。火傷が治ってるのも、飲まず食わずだったのになぜか死ななかったのも、コイツのお陰だとしたら…理屈はわかんないけどツジツマは合う。
「イチオウ言っとくわ。
あ り が と う !」
でも、素直に感謝なんて出来ない。
「で、何が欲しいの? やっぱ、あたしの血?いいわよ。好きにしたら」
首筋を噛むなら体はくっつく。そして食事にどれくらいかかるのか知らないけど、確実に動きは止まるし油断もする。心を支配される前にホーリーシンボルの一発ぐらいぶちかませるはずだ。
たとえ滅ぼした直後に、コイツの後ろに影のように控えている従者に刺し殺されたとしても、かまわない。
「ティア…さん アレフ様はただ、あなたのお父上の…」
父さんがなんだっていうのよ、このヒゲおやじ。父さんのバカげた忠誠のお返しに、あたしを助けてやったとか言いたいわけ?
あ、違うか。
謝ってた。それに今も顔は伏せられたままだ。父さんを死なせたお詫びに助けてくれたのか。もしかしなくても、ものすごくあたしに負い目感じてる?
…これは、ちょっと作戦変更した方がお得かも。
えっと、父さんはコイツのことをどう言ってたっけ?
まじめとか、魔導の研究がどうのとか、学問好きとか、教会の理解者…なんつー物好きな。ということは私への敵対心は…最初からないか。
とりあえず、さりげないお世辞で探り入れてみるか。
「わかっ…てる。そのキレーな顔に書いてあるもん。テンプルが言うほど悪い存在ってツラじゃないもん。人は殺さないって父さんに聞いていたし…」
えっと、コイツの負い目を最大限に利用できる要求ってなんだろう。普通に考えたら金とか地位かな。でも代理人になるのはまっぴらだし…っていうか、いま落ち目だよね。バフルの城主が滅ぼされて、その跡を継ぐのかどうかも分かんない。もしかして金だの地位だのは、カラ約束になるんじゃない?
「よし!あんたにくっ付いてってあげる」
迷った時は、一時保留!あとで利子つけてがっぽり回収。
おっと何か言いたそうだけど、しゃべるスキはあげませーん。
「家はこんなだし、もうこの街にもいられない。テンプルのやり方も気に食わなくて逆らっちゃったし…私の居場所、もうどこにも無いんだ」
しおらしく、なるべく心細そうな声で言ってみる。
よーし、ほだされてる、ほだされてる。
「まあ 非常食だと思ってくれてもいいよ」
あ、少し怯んだ。よし、今なら反対されないよね。
「そうと決まったら、ちょっと旅支度してくるね」
これで、けってーい。
たしか背負い袋が部屋にあったはず。
走り出しかけて、空腹を思い出した。
「あ、何か食べるもんない」
「でしたら、台所に茹でたイモの残りが…」
「ホントに? イモが無事なら、塩も略奪を免れてるよね」
なかなか気が利くじゃない、ヒゲおやじ。あ、自分用の余りか。ま、いいや。腹ごしらえしたから旅支度だ。
1つ戻る 次へ[0回]
PR