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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「術の原理は分かった。対処法は?」
「方陣の効果範囲から逃げるか、仕掛けてる術者を殺るぐらいしか、対処のしよう無いと思う」
なるほど、ホーリーシンボルの奥義を洩らしたところで問題は無いわけか。
「…ティアさんも使えますか?」
「使えるって言ったら…ビビる?」
ハッタリか本気か判別しにくい不敵な笑みを浮かべた元聖女見習いは、不思議と魅力的に見えた。

「それは、怖いですね」
人を捕食し続けてきた存在を前にして、わずかな怯えも見出せない。負い目からアレフが手を出さないと確信しているとしても、ここがティアのナワバリと言える生まれ育った家である事を考慮しても、何の対抗手段も無しで落ち着いていられるとは考えにくい。

世の中全てを見下す青臭い態度は虚勢だとしても、ラットルとかいう司祭より“使える”という自信は本物だろう。

何かが引っかかった。
ティアに教えられるまで、ホーリーシンボルの原理を、なぜ知らなかったのだろう。テンプルの者が使えるのは精霊魔法を応用した炎の術と、触媒を使った召喚術のみだと信じ込んでいた。だから、さっきは足元に出現した光の方陣を危険なモノだと思わなかった。

城に侵入した3人はホーリーシンボルの概念を持っていなかった。そういう術があるという知識を聖女は持っていた気がするが…結び目だとか不死化の術の反転といった術の本質に対する理解が、あの若い司祭には全くなかった。

ワナや結界や守護をかいくぐって寝所にたどり着いたとして、どうやって私を滅ぼすつもりだったのだろう。白木の杭でも隠し持っていたか、時間をかけて焼くつもりだったのか。それとも…

「ねえ、馬車の車軸にイタズラしてるヤツがいるんだけど?」
ティアの言葉で思考は中断した。彼女の視線は背後の窓の外に向いている。
「日が暮れる前にと、走って来たみたいですね。それにしてもセコい手を使う司祭サマですなぁ。借り物の馬車を壊されても困りますし、ちょっと注意してきます」
ドルクがカギを開け、窓を開け放った拍子に、残っていたガラスの残骸が幾枚か落ちて派手な音を立てた。それに驚いて振り向いた、妙に前歯が目立つ男は確か火刑台のそばにいた…

「てっめぇ、ラットル。よくもあたしを焼き殺そうとしやがったな!」
若い娘の物とは思えぬ怒号と共に、金と灰色のカタマリがホールを突っ切り、窓を跳び越え、手にしていた布袋で司祭の顔を殴打した。

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