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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「なんで、ピンピンして…この化け物女!」
殴り倒された司祭が対抗して投げた石は、車軸のクサビを緩める為に握っていたものだろうか。それを顔に当たる直前に防いだティアの反射神経には目を見張るものがある。
だが、
「あー、まだ半分以上残ってたのに!」
ゆでイモで衝撃を吸収したのは計算ではなかったらしい。

怒りに任せて振り下ろした足を捕まれて転んだあと、灰色の法服を着た者同士の取っ組み合いが始まった。いくら威勢が良いとはいえ、若い娘の身で大の男と格闘とは無茶をする。ドルクが助太刀に向かった時には、地面に置かれていた武器…おそらく破魔の紋を刻んだスタッフの奪い合いになっていた。

もしもの時は近くに居たほうが守護の再生は早い。窓を乗り越え、ガラスの破片に注意して歩み寄った時、不意に司祭がうめき、ティアがスタッフをもぎ取って立ち上がった。

「裏切り者め。その回復力、やはり吸血鬼の眷属に成り下がったか」
司祭の非難はあながち間違ってはいないが、どうもティアのカンには触ったらしく、奪い取ったスタッフを高々と振り上げるのが見えた。
「誰が裏切り者よ、モルのオマケのくせにっ」

「操り人形が…食らえ」
司祭がベルトに挟んでいたガラス瓶をつかんだ。弧を描くようにあたりに撒かれたのは透明な水…いや、ドルクが怯み、数滴かかった皮膚が熱湯を浴びたように痛む。もろに浴びたティアが顔はおおって悲鳴を上げた。水に念を込めた“聖水”とかいう攻撃呪か。だがこの程度のヤケドなら、回復呪ですぐに癒えるはず。

「熱いじゃないっ」
手にしたスタッフで座り込んでいた司祭を滅多打ちにしはじめたティアを見て、アレフは驚いた。手加減など考えていない、殺意のこもった殴り方。仮にもラットルは元同僚ではなかったか。

うずくまった司祭が頭をかばう。その手にも容赦なくスタッフは叩きつけられ、嫌な音のあと力なくずり落ちた。あらわになった頭を突き砕く勢いで振り下ろされるスタッフを、あわてて後ろから掴んだ。
「ジャマしないで!」
「やりすぎだ。殺すつもりか」
「そうよ」
 振り向いたティアは、当たり前のように言った。
「だってコイツ、あたしを殺そうとしたのよ。今だって、馬車に細工して事故らせようとしてたじゃない」

「…未遂だし、何も殺さなくても」
「なんで?」
不思議そうに聞き返されて、一瞬言葉に詰った。
「なんでって……理由はどうあれ殺人は重罪」
「ラットルはホーリーシンボルを仕掛けたんだよね。太守を害そうとした者は家族もろとも極刑じゃなかった?」
そういえば、そんな法もあったな。
「もう何百年も適用していない」

ナイフを隠し持ち贄として近づいた若者の首を、親兄弟ともどもクインポートの広場に晒したのは、統治を始めて1ヶ月目だったろうか。見せしめの効果より、反感という弊害の方が大きい上に、執行した側により痛みが残る無益な処置だった。
南の鉱山に送るか、血であがなわせるか…いっそ見なかった事にする方がまだマシだ。
這いずるように門から出て行こうとしている司祭を、今も見逃そうとしているように。

「ちょっと、離してよ。逃げちゃうじゃない」
全力でスタッフを引っ張っているが、やはり非力だ。先端に施された破魔の紋は熱いが、掴んでいられないほどでもない。もうしばらく離さないでいればティアも諦めるだろうと、逃げていく司祭の背中に目をやった瞬間、不意にスタッフが軽くなり、同時に掴んでいた手に激痛が走った。

不敵な笑みを浮かべたティアが、空中で掴んだスタッフをくるりと回し、門の向こうへ走り出していく。
「なん…」
「油断なさいましたね。司祭も関節を極められてスタッフを奪われたんですよ」
馬車の車輪のソバにかがみこんでいたドルクが、苦笑していた。

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