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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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車窓の景色から、いつしか暗い針葉樹や天を突く細い木々が消えていた。
今は横広がりの明るい広葉樹ばかりが目立つ。
朝の光の中、地平線にせりあがってきた丘は、ブドウ畑が織り成す細やかなシマ模様で彩られ、影を落とす雲の形すら違って見えた。

グラスロードの北端、首都バフル直前の最後の駅は、付近の醸造(じょうぞう)所から集められたワインだるを一時保管する、赤レンガの倉庫に囲まれている。
すでに知らせが行っていたらしく、4頭立ての大型馬車と、黄色い布ヨロイに黒ガネの細板を縦に縫い付けた、遠目にも目立つタテじまの護衛が数人、駅の前に待機していた。

「ドゥーチェスと申します。お迎えに上がりました」
つるりとした顔の衛士の首には、太守のくちづけを受けた者の証である赤いスカーフが巻かれている。だが、その下にもう噛み傷は無いはずだ。血の呪縛を施した主が滅びても、その不肖の息子にまで変わらない忠誠を尽くしてくれる姿に目頭が熱くなる。

だが、そんなドーチェスも同乗者の法服を見れば顔を強ばらせる。
「クインポートを守って殉職したブラスフォードの娘だよ」
この説明をするのにも飽きてきた。危険が無いことを示すために、人目がある時はティアの肩を抱いて出るのも、その度に彼女が身を固くする感触にも、いい加減なれた。
(ああ、ネリィ様と同じ髪の色。…仕方ないか)
年かさの者が発する、諦めたような苦笑交じりの心の声にも。

「バフルの街は無事…なのか?」
「街は、無事です」
安堵すると同時に、昨夜のティアの言葉を思い出す。
「街は…か」
ここからは専門の者に手綱を任せられる安心感か、御者台から解放されたドルクは、妙に明るい笑顔で扉を開けて待っている。だが、行く手に待つ惨事や責任を思うと、馬車のステップを登る足は、どうしても重くなる。

いつもの様にティアを引き上げようとした手が、空を掴んだ。蜜色の髪をひるがえし、ドゥーチェスの前に早足で戻った彼女の、ささやくような声が聞こえた。
「モルは禁呪を使ったの?」
「私にはテンプルの者が言う禁呪が何か分かりません。ただ、あなた方の教義を否定するような邪法という意味でなら…」
「やっぱり」

荒っぽく座席に収まったティアの目は、朔の日の海より暗かった。その横の気遣わしげなドルクの表情といい…車内が広くなった気がまるでしない。まだ、真横に元気な敵意を感じていた前の馬車の方が開放的だった。

「禁呪、というのは?」
尋ねてみたが、今回はなかなか答えが返ってこない。そのうちに馬車は動き出し、前後を固める四騎が規則的な蹄の音を響かせ始める。背もたれの向こう、板一枚を隔てて立っているドゥーチェスら2人の警護者の、晴れがましく浮き立つような興奮を、沈黙の中で感じていた。

この大げさすぎる出迎えは、街の者の不安を少しでも取り除くためのものだろう。まだもう1人の太守は健在だと知らしめる為の儀式ばった演出。
それにしても、一体なにを城内に召喚して父を滅ぼしたのか。まるで見当がつかない。少なくとも今まで見てきた異界の生き物より厄介な存在なのは確かだ。

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