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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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HN:
久史都子
性別:
女性
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転化する前から、シャルは夜に生きていた。父親はわからない。母親は薬酒と病気が頭にまわって死んだ。乳をくれたのは妹分の浮かれ女。亡くした娘の服を着せられたシャルは、客が来ると犬と一緒に追い出された。

酒場で残飯をもらうために客引きをした。ヒモのマネゴトや、サイコロのイカサマもした。義兄弟になってくれたゴロツキの手下をやってた時、サグレス司祭に出合って、侍童になった。

学は無くても、ケンカと強請《ゆす》りは得意だ。サグレス司祭を邪魔するヤツは、殴って脅して黙らせる。
捨て犬みたいなオレにだって恩返しはできる。

シャルが生きる目的を見つけた時、サグレス司祭は消えてしまった。庇護者を失ったシャルは、キニルの街に放り出された。

再会したのは、ひと月後。ヤケになってボコられた夜の路地。
サグレス様の口づけを受けて、シャルは吸血鬼になった。太陽にも真っ当な暮らしにも、未練はなかった。

シャルの闇の親、サグレス様が欲しがるのは、力を感じる学生。今夜の捧げ者を物色していた時、銀髪のヨソ者を見つけた。

心話が通じない。
ニオイも違う。
サグレス様が転化させた吸血鬼じゃない。サグレス様の始祖、バックス様の血族でもない。

気配も消せないドシロウト。シャルの尾行にも気付かないマヌケ野郎。氷とぬかるみの森にはびこる山賊《バンデット》や、バカで大柄な浮かれ女と同じ、薄い色の髪と肌。

湖の向こう、ホワイトロックから出て来たイナカ者の分際で、オレよりイイ服を着てるなんて生意気だ。偉そうに背筋を伸ばして歩くのもカンに触る。
ここはオレのナワバリだ。

だから、一番ムカつく事をしてやった。

「なぜ、殺した」
「オレの言ったこと、わかんなかったか。
悪い悪い、キニル育ちで早口なんだ。イナカ者にも分かるように、ゆっくり言ってやるよ」

後ろから腕を引っ張ってるヒゲのオッサンは、昼の寝所を守る生者の用心棒か。
「その者はおそらくテンプルの…ここは、お引きください」
素直に言うこと聞いとけばケガしねぇのに、振り払ってやんの。バカだねぇ。

「この町はオレのナワバリだ。ここの学生はオレのものだ。お前はオレのものを盗った。奪い返して何が悪い?」

挑発したら突っ込んできやがった。軽く足を出したら、見事にすっ転んでくれた。
銀色の頭を踏みつけて、肩をヒザで押さえ込む。ドレープが出来るほど上等な布をたっぷり使ったマントも生意気だ。

「イナカ者にしちゃシャレたモン着てるじゃないか。どうせ似た背格好の金持ち殺して盗ったんだろう?」
悔しそうなツラを踏みにじる。キバが下唇に刺さって痛いはずだ。
「てめーの血は、どうだ? 腐れて飲めたモンじゃねえか」

(すみま…せん)
体の奥から声がした。心話にしては小さくてハッキリしない。そっか、さっき飲んだ血を介して送ってるのか。

(お金…さしあげます。それで…)
怯えた灰色の眼。こびをうる負け犬の目。
「最初っから、素直にはいつくばってワビ入れてりゃ良かったんだよ」
足をどけてやった。

一握り分の銀貨と金貨がつまった皮袋の重さに、シャルは満足した。
「なぁ、お前の闇の親も、ホワイトロック城の地下を抜けて来たんだろ?ったく、ひでぇ事するよなぁ」
白い顔に笑みが浮かんだ。愛想笑い…いや、違う。獲物をし止めたような、場違いな笑い方。

だから最後に、形のいい鼻を蹴り潰してやった。
「もういい、とっととうせろ」
すぐに治るだろうが、鼻血を垂らしながら通りを歩くヤサ男は見モノだ。日ごろ食い物にしてる人間に、笑いものにされる吸血鬼はユカイだ。


「それで、つけてったら…アイツ、孔雀亭《クジャクてい》に入っていったんですよ。生意気で小シャクで不釣り合いで役不足です」
地下水道の奥、印刷所跡でシャルはまくしたてた。

「お前が今宵の供物を持って来なんだ言い訳は、それで終わりか?」
サグレス様の言葉に、うつむいた。義務を果たした他の闇の子たちのあざけりが痛い。

昔、テンプルが秘密結社だった頃、使われていた地下の活動拠点。それがサグレスを頭と頂くシャル達の隠れ家だった。シャルたちが昼間眠る乾いた部屋は、吸血鬼を倒す武具を開発していた鍛冶場らしい。

ここで教宣ビラや読売りを印刷していた時に、手入れを受けて大勢殺されて逮捕されて、ここは放棄された。でも、今のシャルには関係ない。サグレス様の不機嫌こそが問題だ。

「明日の夜は必ず」
「宵にしこたま飲んだのであれば、宴に参加する必要もなかろう。もう休め」
優越感に満ちた24の眼に押されるように寝所へ向かう。

「金さえ払えば卑しき者も泊めるとは…格式を重んじる孔雀亭も落ちたものよな」
青ざめた娘を抱き寄せながら、つぶやくサグレス様の声には、どこか懐かしそうな響きがあった。生者だったころ、泊まられたのかもしれない。

そうだ今度、生意気なヤツの部屋に押しかけて、部屋付きの女中を噛んでやろう。宿の者にヤツが犯人だと言いつけよう。正体がバレたと、身のハメツだと、ビビって泣き出す白い顔が目に浮かんだ。

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