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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「居るハズの者が居るべきところに居ない。そして、居るべきでない場所に居ないハズの者がいる」
「早口言葉にしちゃ出来が悪いねぇ」

メンター副司教長の生き生きした目を見返して、モリスはため息をついた。モリス自身も老けたが、同期の出世頭もシワと白髪が増えた。でも謎をかけたがるクセは、黒髪が豊かだった時から変わらない。

「移動したんだろう。よその大陸じゃ木や建物も動くそうな」
適当に答えながら手元の細長い通信文に目を落とす。最近は手をめいっぱい伸ばさないと細かい字が読めない。

「あのお騒がせ娘が火刑台のケムリとは」
東大陸の実力による開放。
野心まみれのモルの誘いを受けて師を裏切り、副司教長派の体面を潰してのけた小娘。腹立たしいのに悲しい。陽光が少しかげった気さえする。

「目の離せない聖女見習だった。あんな我がままを通さなきゃ若い命を散らす事は…なんだ、死んでねぇのか」
2枚目を読んで安堵した。そして選ばれただの運命がどうと、似合わぬ事を言い出したワケが分かった。

「ティアは目的を果たしたのか」
後悔を知らない勇気と錐のような決意を胸に抱いて密航し、キニルにたどり着いた娘。危うい少女の外見と未熟な肉体を唯一の資力に、良心なき度胸と千変の嘘でホーリーテンプルに入り込んだ騒乱の源。蜜色の頭には狡猾さと愚直さが同居していた。

「バカの一つ覚えみてぇに演習してた破邪の呪、無駄にならなかったか…」
いや、ティアが太守を滅ぼしちゃマズいのか。メンターの実家のため、そして、ホーリーテンプルを崩壊させないためには。

「ティアの心に呪をかけておいた。アレフを滅ぼせると確信した時、発動するよう」
「ひでぇ師匠だな。全てを賭けて挑む弟子を潰したのかい」
一瞬のためらいが死に繋がる人外の者との戦いで、あまりに致命的だ。

「殺す前に損得を計算しろという暗示…いや、少々小細工を加えた人として当たり前の教育だよ。永らえさせても利がないと感じたら、ティアはためらわない」
 
「その損得は師匠とテンプルの利益で?」
「ティアの、だよ。出来れば我々も利に含んでくていれると嬉しいがね。久しぶりに目にした故郷と親の幸福でも構わないと思っていた。だが、ティアの望みは永遠に叶わなくなった」

薄い陶器がぶつかり合うかすかな音に、言葉がとだえる。ミュールが運んできたシリル産の香茶が、静かな室内に森の香りを広げる間に、残りの通信文をナナメ読みした。

再開されたバフル教会からの通信文を見る限り、ティアは上手くアレフに取り入ったようだ。メンターの意が通じるものが魔物をいつでも制する位置にいる状況。これは願ったり叶ったりだが…

「つまりルスラン達を殺ってダイアナを噛んだのはアレフか。どうして、こうなった? あのアバズレ娘は500歳のジジイに何を吹き込みやがった」
「私が聞きたい。出来れば速やかにお帰りいただきたいが…。遠方からお越しの太守は、英雄モルの命をご所望だ」

モルにバレない様に、ハト小屋を押さえさせたのか。
「ティアもアレフもキニルにはいない。それで押し通す」
「向こうから来るだろう」
「始元の島を外界から隔てる結界は、決して不死者を通さない。闇の女王が築き故モル大司教が強化したもの。始祖とはいえ齢一千歳にも満たない若造に破れるものではない…らしい」

「それは表の話だろ」
「裏に気付く前にキニルを出ていただく」
どうやって…という問いは、廊下で争う物音に立ち消えた。

突然ひらいた扉。武装し騎士と拳士を従えて許可なく入室した歳若い司祭。遅い午後の日に映える金髪の下の目は、不遜な輝きに溢れていた。

「危急の帰還命令を出しておきながら、理由は告げずに早ひとつき。しかも速文とハトの翼が運ぶ通信文は全て、そこの腰ぎんちゃくが副司教長室へ届けたあと行方不明」
挨拶もなしにまくし立てる来訪者は、薬品臭い指を突きつける。モリスは、懐に隠した通信文からなるべく意識を離して、憮然としてみせた。

「テンプルの、いや教会の真髄は全ての知を共有する事だと唱えて、私の研究は秘密主義的だと日ごろ非難しておられたのは、どこの誰でしたでしょう」

腕組みしたモル司祭に、金の蝶を象った留め金でまとめた書類を、うやうやしい態度でメンターが差し出す。
「遠征の直後は疲れているのはないかと。なるべく雑音はさけ心安らかに休暇を過ごし、地下での研究を進めてもらいたいと配慮したつもりなのだが、余計な気を回しすぎたようで…いや、すまなかった」

「実戦に出たことのない、親の金で司教位を買った貴方がめぐらせるふやけた企みなど、底が知れてます。そのあたりをわきまえて、そろそろ引退後の屋敷を建てるために難民を駆除する準備をはじめられては…」

片手で引ったくり、口元を歪めて通信文の束を読んでいたモルの眉間に深いシワが刻まれた。
「シリルにヴァンパイアだと?あり得ん」

机に跳び乗ったモルは、ストールごとメンターの胸倉を掴んでゆすぶった。
「貴様、地下の実験体を勝手に逃がしたな?」
「何を言っている。ヴァンパイアを滅ぼす使命を帯びたテンプルが、吸血鬼を作るわけがない。居ないものを逃がすも何もない」

手を離したモルは、来た時以上に荒々しく出て行った。

「本当に…逃がしたんですか」
乱れたエリ元をととのえる超然としたかつての友への問い。氷が張った湖に飛び込むぐらいの勇気が要った。

「モリスまで聞くのかい?地下牢に閉じ込められたまま何年も放置されていた男を哀れんで逃がしたのは私ではない。
と、真実を話したところで、どうせ信じないくせに」
本人が危険な地下にいく必要はない。誰かをソソノカして逃がすよう仕向ける事など、メンターにはたやすい。その誰かがどうなったのかは、考えたくない。

「それより、使いにたってくれないか」
「居ないはずの者に?」
「いや、ティアにだ」

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