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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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湖面に映る夕雲を、広がる波紋が砕く。
夕方になると、ニッキィは湖に向かって石を投げる。投げる石がなくなれば泥を掴んで投げる。次から次に生まれる不安や怒りを大湖に投げ込まないと、当たり前の顔をして家へ帰れないらしい。
ハンスはそんな幼い友人の背中を見守るしかない。

教会は信用できないと分かった。
それがニッキィをひどく落ち込ませた。

ミリアを襲った吸血鬼を探して、ハンスが宿と駅をまわり、タカリに間違われて邪険にされたり、野良犬のように叩き出された翌日。乾季は人が立ち入らない高台の漁師小屋や、心当たりの廃屋を回っていた時。

母親にもう看病はいらないと言われたニッキィは、教会の門を叩いた。

1日1銀貨というバカ高い授業料。教会は貧しい子供を相手にしない。ニッキィは無視された。だが、門前で叫び続けた。怒鳴られ、こづかれ、突き飛ばされても諦めなかった。
根負けした準司祭が、母親を診てやると言うまでは。そして、家につくまで準司祭の手を離さなかった。

噛み傷を診た準司祭は、魔物の呪いを解くには準備が必要だと一度は帰った。抜け目ないニッキィに身分を示す腰の紐を奪われてから。

遅い午後、準司祭は仲間を連れて戻ってきた。そして多額の寄付を要求した。払えないとうつむいたニッキィに、恩着せがましい笑顔を見せた。
魔物から人を救うのが使命だから今回は特別にタダで秘術を行なってやる。魔物のトリコになっている母親は嫌がって助けを呼ぶかもしれないが、夜明けまで決して入るな。そう言ったらしい。

隠れ家探しから戻ったハンスがニッキィから話を聞き、親切ごかしな言葉の裏に不穏なものを感じて家に飛び込んだとき…連中はミリアを裸にして胸や足を触っていた。鞘に収めたままの剣を振り回し連中を叩き出した。捨て台詞と呪いの言葉を吐いて走り去る連中の後姿にツバを吐いた。そこまで腐っていた事にハンスもガク然とした。

ハレンチな悪行を隠そうと、連中はニッキィと母親に関する淫らな中傷まで流した。親しい友人やニッキィの親方は一笑に付した。だが、下宿屋の女将に、不道徳な女と付き合うなと苦言を呈されたハンスは滅入った。

ニッキィは、どうして…と、問いもしない。
大湖のように全てを飲み込み、日々の糧を得るために仕事に向かい、作り直した木刀を振る。ミリアも黙々と刺繍を続けている。

ニッキィが石投げを止めた。無気味に鳴き交わすサギを見上げ、足早に家に向かう。ハンスは黙って後ろを歩いた。

ニッキィが漁に出ている間、ハンスは災厄の源を捜し続けていた。だが、あの日を境に、それらしい余所者を見かけたという話は聞かない。ここらで飲み比べを持ちかけたヒゲの男も消えた。もうウォータを出ていったのかもしれない。

「あいつら、また」
不意にニッキィが駆け出した。灰色の法服が家の前に見える。ハンスが駆けつけたとき、ニッキィは木刀を司祭の喉元に突きつけていた。

「何しに来た!」
「お話を聞きに来ただけよ」
横の聖女は笑顔だ。黒髪を耳のあたりで切りそろえた司祭が軽く手を動かし、ニッキィの木刀を絡め取った。
「無闇に人に向けるものじゃない」
しゃがみこみ、視線を合わせてニッキィに木刀を返す。こいつらは…本物だ。

ルーシャとアニー、そう2人は名乗った。ニッキィとハンスが見守る前で、ミリアにいくつか質問して、ひどく深刻そうな顔をしていた。口づけを受け呪縛されているミリアはあいつの事を決して話さない。

特徴や服装を話したのはニッキィだ。2人はニッキィの勇気をほめながら、ヤツが鋼の手甲をはめていた事や、どこから仕掛けて、どう突き飛ばされたかを、実際にその場所に立って実演しながら聞きだした。攻撃を防いだ木刀の破片や、切り裂かれた服まで見たがった。

ニッキィの傷ひとつない胸を見ても疑わない。どんな魔法だったのか、ニッキィに話させた。呪文や印を覚えている限り再現させた。こいつらは、俺以上に本気であいつを滅ぼそうとしている。

礼を言って辞去する2人のあとを追った。
「なかなかスジのいいお弟子さんですね」
思わぬ賛辞に照れながら、隠れ家を探していると打ち明けた。
「目の付け所はいいと思いますが、もうこの町には戻らないでしょう」
やはりという思いと徒労感、そして安堵が広がる。

「ティアという聖女見習いを見かけませんでしたか。茶色に近い金髪の娘です」
あいつを探すのでなければ、決して入ろうと思わなかった立派な旅宿。その食堂で、高そうな水菓子や料理を食っていた娘を思い出した。

「ヴァンパイアに呪縛され糧として連れ回されているらしいの」
連れは銀髪の若ゾウだとあの娘は言っていた気がする。
「隠れ家は白サギ亭だったのか」
昼の眠りをむさぼっていた部屋に踏み込もうとすれば、総がかりで白亜の建物から叩き出されたろう。それでも悔しさがこみ上げる。

「見つけたぞお」
黒い胴着の男が叫んでいた。ランタンを振りながら向こうから駆けてくる
「少し前に急ぎの旅人に雇われて、まだ戻らない舟を見つけた!雇ったのは3人組。小生意気な聖女見習いとヒゲの男と銀髪の若いの」
司祭と聖女がうなづき合う。カルカ酒を飲んだように心が熱くなった。

「オレも、その…手伝いたいんだが」
勢いで口にしてしまった。剣も抜けないのに。
「お申し出はありがたいのですが、この先は私らも命がけになります。出来れば気心の知れた仲間だけで挑みたいので」
落胆と共に恥ずかしさが込み上げる。

「あなたはニッキィの英雄でしょ」
聖女が剣の柄を包む。修復の呪が唱えられ、剣が抜かれた。くもり一つ無い刃が肩に当てられる。
「ここであの親子を守ってあげなよ。1度は騎士を目指したのなら」
震える声でハンスは誓いを唱えた。
「オレはここでニッキィとミリアを守る。命をかけて」
誓いの言葉を心に刻みながら剣に口づける。

若い頃はふざけて剣の誓いを幾つも立てた。飲み代のツケを来月こそは払うと酌婦に誓って、破ったこともある。

だが、今回は違う。
この誓いだけは破らない。たとえ思いが報われなくても。

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