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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「ホーリーテンプル…教会の今の本山がどこか知ってる?」
ティアが口を開いたのは、アレフ自身が質問した事を忘れかけていた頃。馬車が丘を1つ越え、行く手に首都を囲む一重目の土塁が見えた時だった。なにかイラついているような妙な口調だ。

さて、オリエステ・ドーン・モルが最初に教会を開いたのは森の大陸北部にある古都スフィーだったハズだ。巨大な石造りの建物が街を圧するように建っていたのを思い出す。
だがあえて“今の本山”と問うならば…別の場所に移ったという事か。

血と共に取り込んだ、若い司祭の記憶にあった学び舎はやけに明るく白かった。正午の陽に輝く南向きのステンドグラス。そして四季折々の花を配した中庭とそれを囲む白い円柱の回廊。モザイクタイルの床と細密な壁画には懐かしさと見覚えが…
「セントアイランド城?」
夜の女王がしろしめす白亜の王宮。世界の平安を護る真白き要石。かつてネリィと永遠を誓ったあの場所で、テンプルの叙任の儀式は執り行われていた。

「ファラが作った賢者の石、いま誰が持っていると思う?」
「まさ、か」
ホーリーシンボルが不死化の際に使われる方陣の反転なら、その元になったビカムアンデッドの術式全てを、テンプルは解析していることになる。あとは触媒が…賢者の石があれば、不死者を作ることができる。
「禁呪とは始祖を作ることか」

「あんたに施された術と違って、もっとおおざっぱで、いいカゲンで、ロクでもないシロモノだけど、ぶっちゃけて言えばそう」
「大雑把な不死化?」
なんだ、それは。
「“なりそこない”って呼んでた」

「一定範囲の者を一度に不死化させるの。力は分散するから、死んでから復活するまで時間がかかる。停滞の魔方陣も無く保護の呪も無く放置されるせいで、肉体の一部は腐って、特に脳は取り返しのつかない事になって…けど、ぱっと見は生前のままだから、ダマされて…助けようと手を差し伸べた者を噛んで、どんどん殖えて、収拾がつかなくなる」

強くなり始めた陽光を防ぐ為、ドルクが遮光カーテンを閉める。にわか作りの夜の中で、陰惨な想像が広がった。
「いくら捨て駒とはいえ、指示を聞かないのでは味方と言えないだろう」
「“なりそこない”は見境なしに動くものを襲うけど、破邪の紋を身につけた人間には噛み付かない。理性は壊れて本能もおかしくなってるけど脊髄反射だけは残ってる。
おとついだか、うっかりネックガードに触った手を引っ込めてくれたおかげで、危うくあたしが袋ダタキになりかけた時みたいに」
「あれは…」根に持ってたのか。

車輪の音が硬くなっていた。草原に刻まれた土のワダチから、石だたみの道にさしかかったようだ。
「不完全な不死化だから、そんなに長生きはしないと思う。数ヶ月もすれば完全に腐って骨になって…でも、そんなんがあそこにうろついてたら、みんな落ち着いて眠れないよね」

ティアの視線の先には、北東の丘にそびえる灰色の城館があった。周りを囲む背の低い果樹園には最初にこの大陸に植えられたブドウ樹の直系を始め、改良を重ねて生み出された全種類のブドウ樹が、ひと畝ごとに植えられ、ワインの試作品が何種類も作られていたはずだ。
だが、今は働くものの姿は無く…よく見れば城の窓という窓全てが、外から板でふさがれ、荒んだ空気を漂わせていた。

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