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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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右ヒザいっちゃったな。立ってるのも辛い。けど胸骨ごと心臓ツブせたんだから安いモノ。痛みでかえって破邪呪に力がこもる。

こいつさえいなければ、父さんは、よそン家の父親みたいに家族だけを愛してくれたはず。母さんが新しい恋人と出てく事もなくて、あたしは夕空を見上げて泣いたりしなかった。

このバカが40年も眠ったりしなければ、父さんは辛い思いしたあげくに、あんな酷い殺され方しなかった。あたしも牢屋でカツえたり凍えたりしなくて、胸を刺す痛い夢を見て飛び起きる事もなくて…

「でもね、ティア。
君が生まれたのも、私と出会えたのも、お父上を呪縛した魔物のおかげ、とも言えるんだよ」
メンター先生、あなたが言ってた事は、悔しいけど正しい。

父さんが結婚したのは母さんが似てたから…魔物が愛して失った娘に。たぶん父さん自身の想いじゃない。
母さんがあたしを身ごもったのは、そんな父さんを振り向かせるため。
でも、ダメだった。
まだ若かった母さんは傷ついて絶望して、人生をやり直した。

それに、アレフが眠り続けてなければ、老いて寂しくなって結婚なんか考えだす前に、父さんの命は啜り尽くされてた。独身が基本の代理人がもうけた、あり得ない子供。
光の方陣から逃れようと無様にあがいてるこいつが父さんを食い残してくれたから、あたしはここに居る。

だからって感謝する気には、やっぱりなれない。
…でも、敵討ちを手伝ってくれそうな心当たり、他に居ない。

「ティ、ティアさん!」
見物を決め込んでいたドルクが、慌てまくって叫んでる。
「冗談よ、ジョ・ウ・ダ・ン」
詠唱を中止して、笑ってみせた。
「あたしを侮って、最初本気出さなかったバツ」
ヒゲオヤジってば、剣に手をかけてニラんでる。ちょっとヤバかったかな。

ヒールの呪文を唱えた。心の奥に感じる光を呼んで、広げて包む。
切り裂かれた腕と、不自然な動きを強いて壊れかけてた手足の筋肉、それと右ひざの痛みが軽くなっていく。
回復の効果は、倒れてるアレフにも及んでるはず。そろそろ口、利けるかな。

「どう、これが今からアレフが闘おうとしているテンプルの力よ。しかもあたしは見習い。下っ端だからね」
身を起こしかけて胸を押さえたアレフから、ささやくような声が聞こえた。
「お強いんですね」
危機感のない言い方に、ムカついた。

「まだ、分かんないの!テンプルが得意なのは今やったみたいな個人戦じゃなくて、数人が連携する集団戦! あんたは魔法を使わなかったし私も補助魔法は使わなかった。
でもね、ホーリーシンボルを中止しなかったら、今頃滅びてたのよ。
あたし1人に苦戦してて、この先どうなると思ってんの?」

「いや、でも今まで見たテンプルの司祭と比べたらティアの方が。あのクインポートにいた…ラットル?」
あたしを縛ったまんま牢屋に閉じ込めて、焼き殺そうとしたムカつく司祭か。馬車に細工しようとして、とっとと逃げだした意気地なし。
「あれはクズよ」

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