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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「あんなのを基準にしちゃダメ」
だが、ティアを基準にするのはもっと間違いだろう。
初めて会ったとき、彼女の言葉にこもる意志の強さと目の光にアレフはおどろいた。周囲の目を引き、好悪ないまぜの感情を喚起し、騒動を振りまき続ける娘。

禁呪を操り父を滅ぼしたモル司祭。テンプルでもっとも実力と実績があるはずの彼に、殺されかけたとティアは言った。
目を覆いたくなる内規のゆるみと身びいきが横行するテンプル。仲間である聖女見習いを、あれほどの手間をかけて公衆の面前で処刑するなど…。
密殺では安心できないほどの怖れを抱いたのだろうか、確かに死んだと大勢の証人を必要とするほどの。

あたしはテンプル流拳法の名人ってわけじゃないよ。最近は術のほうに力入れてたし…並ってとこかな。
それに女の子だし、手足の長さでも不利。あたしが勝てたのは奇跡だって、誰もが思う。でも、あたしはもう一度勝つ自信あるよ」

わかっている。本気になっても、かするだけで触れる事も出来なかった。最後にティアの手首を裂いてしまったのは、手柄でも目測の誤りでもない。動揺させ血の色と香りで注意を引きつけてスキを作るため。心臓への一撃を放つ手段にすぎなかったと、今ならわかる。最後までいいようにあしらわれた。

もし、なんらかの武器…スタッフを持っての試合だったら、もっと早くティアが勝っていた。

だが、今まで人間に負けた事はない。未知の魔法にかかったような気分だ。
「この前城に侵入したテンプルの…」
反証を挙げようとした口をつぐむ。ティアの同僚にした非道を思い出した。怯えきった虜囚の血を力尽くで飲んだ。飢えに苛まれて、という言い訳は卑怯だろう。

「そう言えば、クインポートに帰ってきたモル司祭ご一行、人数が足りなかったわね。何人かはカウルの山城にいったんだ。で、あんたが倒したの?」
絶句した。
「無理よね。ドルクか、城に放し飼いにしてる使い魔にやらせたんでしょ。
今の顔からすると、とどめだけは刺したのかな。どうせ武器を奪って縛り上げた無抵抗な捕虜の首に牙を突き立てたんだろうけど」

縛り上げてはいないが、装備を奪い光の無い牢にバラバラに閉じ込めた。それに彼らは死の恐怖に怯えていた。何があっても命までは取られないと確信しているティアとは違う。
少し曖昧にうなづいた。

「完全武装した聖騎士に、あんたが勝てるとは思えないもん」
「生け捕りにしたかったので、罠にかけて1人づつ捕まえました。確かに、テンプルの連携戦術は侮れませんからね」
切れ目を入れた丸パンに、あぶったくんせい肉を挟みながら、ドルクが深刻な顔で同意する。

「ヤバいと思うでしょ?
テンプルはひたすらヴァンパイアを倒すことだけ考えて来たのよ。闘うことがオシゴトなの。そんな連中を相手に闘おうってのに、あんたは拳ひとつ満足に握れてない素人なんだもん」
胸の痛みが取れたのを感じて、肺に空気を取り込んで吐いてみる。もう血の香りは混ざってない。

「ケンカが苦手なのは性分だから仕方ないとして、せめて魔法ぐらいは実戦で使えるようになってもらわないと。
それに、ある程度体術が出来てなきゃ、呪文を唱える間合ってヤツが掴めないのよね。
というわけで、今日からあたしがみっちり鍛えるから」

言葉の奔流に溺れかけていた頭が、最後の一言を理解したとき、ティアが目の前に立っていた。
「鍛える…って?」
それは無理だ。老いない体は成長もしない。

「鍛えるのは、ココ」
額を人差し指で突かれた。

ため息交じりの精霊を呼ぶ呪と印。微風がティアの周囲を舞って、大気に溶けていった。
「寝る間も惜しんで魔術書訳したけど、使い物になンなかった。自律した意思ある風なんて意味わかんない。共通文字じゃ抽象的な術のガイネンってやつは表現できないから、辞書に限界があるの分かってたけどね。」
話題の展開についていけない。鍛える話と精霊術に何の関わりがある?

「あたしの頭の中には、魔導師用の旧字のガイネンってヤツが入ってない。だから術をモノにするのに時間がかかる。でも、アレフは見よう見まねでもホーリーシンボル使えるんじゃない? 反作用で滅びちゃうから発動は出来なくてもさ」

出来る、だろうか。何日か考える時間があれば…
「多少の変更をしてもいいなら、近い事は」
「丸覚えじゃなくて改良も出来ちゃうんだ、マジすごいね」
あからさま賞賛に、敗北に腐りかけていた気分が少しだけ上向く。

「術だけでなく色んな学問にも、ガイネンとか公式ってあるでしょ。
ケンカとか斬りあいにもあるんだ、公式とか専門用語にあたるものが。頭の中のそれが体の動きに結びつくとワザになるの。あたしはそれを使って闘ってた。
でも、アレフはいちいち考えてたでしょ。辞書片手に共通文字で魔術書を読むみたいに」

複雑な証明を、教会が教えているような単純な数式だけで行うわずらわしさを想像した時、ティアの言いたいことが…勝てなかった訳が理解できた。

「じゃ、あたし達が晩御飯食べてる間、型の練習ね。マント脱いで」
抗議しかけてにらまれる。
「負けた奴は勝ったもんの言うこと聞くのが約束よ」
いつした、そんな約束。少なくとも試合の前には言ってない。という言葉は飲み込んだ。ティアの正しさは分かっている。

「本当は強い筈なんだから。ヴァンパイアは人を捕食するのに十分な力を持ってるはずでしょ」
だが、それは闘うための力ではない。傷つけないための…諦めさせるための力だ。

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