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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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果たして馬車は、“なりそこない”がまたウロついている城ではなく、街の大通りの先にある、石造りの館に向かっていた。
道端で立ち止まって馬車を見物している人々の、歓迎するでもなく嫌悪するでもない、期待と諦めの混ざった中途半端な沈黙は、居心地が悪い。

区画ひとつを占める四階建ての建物。その正方形の中庭へ入る直前、周囲の道に並ぶ数十台の馬車に気づいた。ため息がもれる。ある程度予想はして、クインポートからずっと何も口にしては来なかったが…

「半分くらい、イモータルリングでゴマ化せないものかな」
「衛士はともかく代理人はダメでしょう」
互いの信認を得るために血の絆を結ぶ儀式。覚悟や能力を試すのはこちらだが、間違いなく彼らも比べてくる。力が、そして資質が、どれくらい父より劣るのかを。

中庭を囲む全ての窓に黒い紙が貼られているのを見れば、夜まで待ってくれそうに無い。車寄せを覆う日除け布の向こうに立っていた出迎えの者は5人。中央に立つ、葡萄茶色のドレスをまとった紅いスカーフの婦人の厳しい顔を見るかぎり、既に比較も落胆も始まっている様だ。

ドゥーチェスらが立ち台から降りてステップを固定し、ドルクが馬車の扉を開いて先に降り、周囲の安全を確かめて降車をうながす。
「道中、嫌な思いをさせて悪かった。これで最後だ。この先は私の想い人だと誤解させなくても身の安全を保障できるはずだ」
降り立つ前にティアの肩を抱き、耳元にささやいた。
「どうかなぁ。それに、まだ貸しはたっぷり残ってるんだけど」
今回は肩に触れても反応がない…興味深そうな視線を出迎えの者達に向けたままだ。この8日間、同行していたにも関わらず、この娘の考えている事は未だ良くわからない。

「アルフレッド・ウェゲナー様ですね。わたくしはお父上ロバート・ウェゲナー様にくちづけを賜り、このバフルを任されておりましたイヴリン・バーズと申します」
凛とした声だった。ティアの法服を見ても全く動じない女丈夫と、父が遺した家臣団が最初の相手か。

40年の間に街が様変わりしているのも、館に馴染みが無いのもクインポートと同じ。町長の時の様に相手の領界に踏み込む愚はもう犯したくない。
イヴリンの知識と忠誠心はすぐにでも欲しいが…今は硬質の意志に魅了の力も弾かれる。
陽光の入らない部屋でなら、術がかからない相手にも、少しは優位に立てるだろうか。

「父が滅びた後もよく街を守ってくれた。その事に関してはどれほど感謝の言葉を並べても足りはしない」
4人の取り巻きから引き離せば弱気を誘えるか?
「父の方針は出来る限り踏襲したい。詳しいこと知るために、出来れば落ち着ける場所で…その、思い出すのは辛いかも知れないが」

「残念ですが、そのようなお時間は今、お取りできません」
これは、つけこむスキを作るどころか…くちづけ自体を断られたか。

「深刻ぶった顔で見え見えの芝居しても、この人達の心は掴めないと思うけどなぁ。どうせ噛んだらバレるのに。館の周りに止まってた馬車の数確かめて、舌なめずりしてたの」
全ての思惑と体裁をあざ笑う言葉を横から浴びせられ、驚いてティアから手を離す。いや、接触したからといって人は心を読めないはず。指輪を介して覗かれた、か?

「父を…いや、主を喪った者達の心痛を思えば、おのずと」
「そうかなぁ、
目の前にご馳走が5つも並んでて、内心うれしくてたまらないクセに」
「何を言って…」
無邪気を装ったティアの笑みから目をそらす。連れの非礼をどう詫びるか考えながら、イヴリンとその横に並んでいる男たちの、こわばった顔を見つめた。
密かに、5人を品定めしていた事に気づかされる。彼らも比較しているのだろうが、こちらも比べていた。それも美味しそうか不味そうかという失礼にも程がある基準で。

不意に、さっきまであった力を受け付けない壁のような意志が消えているのに気づいた。今なら視線を捕らえるだけで簡単にイヴリンらを魅了できる。

考えてみれば、今日、この館に集っているのは、血と引き換えに権力を望む者たちばかりだ。既に承諾は終わっている。あとは…魅了し、崇拝と悦びを心に刻んで、数口分の血を記憶と共に取り込めば、感覚と意識を共有するしもべとなってくれる。頑なな抵抗など、元々あるはずが無い。

扉の向こうに感じる気配の多さを考えれば、この5人を味わって、状況確認と気力の回復をはかっておいた方がいいだろう。長旅の疲れを取るためにも…いや、その為の出迎えのはず。太守としての資質を試したあげく門前払いする為に立っているわけではあるまい。
たとえ、しもべにできなくても、血と記憶が得られればそれで十分。

ただ、イヴリンだけは違う気がする。
喉を包む紅いスカーフの結び目は、堅い誓いの象徴に見えた。


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