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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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代理人のしわ深い寝顔をもう一度見下ろしてから、光の一切入らない地下室へ向かった。招かれざる者に心理的な圧迫を与える呪を施した堅牢な扉も、すみに置かれた書き物机も、地の力を取り込む結界を施した黒く艶やかなひつぎも、ていねいに磨き上げられホコリ一つ落ちてはいない。

浮き彫りが施された蓋を開き、紗布を張った狭い空間に身を横たえる。闇の生を削る昼の過酷さも、ここにだけは届かない。目を閉じ意識をほどいていく。物理世界を動かしている精緻な法則の夢を見ながら、しばしまどろむために。

父の事は確認するまで考えたくなかった。
人々の変化も、うつろいやすい、もろく短い人の命が造り出す営みや、政治といった面倒な事も…。

それでもアレフはこの大陸の半分近くを“持って”いた。いくつかの小さな村と町、そして貿易港が一つ。そこに暮らす領民に責任がある。
しかしすでに制度は完成され、数百年の間、予想外の事はまず起こらなかった。

アレフに必要な血を提供してくれる人々、支配を確実にするために啜る代理人という名のしもべの血。これは形だけ、ほんの数口、時には舐めるだけ。健康をそこなわないように、時間をおいて慎重に飲む。

そして、数ヶ月か半年に一度、不足した分をしもべが用意してくれる贄から欲しいだけ貪った。人の少ない村では数年に一度。貿易港を持つ町からは毎日数人の贄を提供させる事もできた。

何百年とその習慣は続き、変化は世界の秘密を解き明かして行く知的な道程だけのハズだった。
領民は従順な提供者でそれ以上のものではなかった。欲しいと言えば形式的な承諾を得るだけでしもべの館で味わうことが出来た。拒絶する者がいると聞いてはいたし。しかしアレフの要求はいつも叶えられていた。

ネリィに会ったあの日まで。

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