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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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代理人の心に失望と悲しみが広がるのが感じられた。待ち続けているうちに己が主の欲望の対象になる資格を失ったことを悟り始めていた。時が彼から奪ってしまったものは大きかった。

しかし、今の村の状況では身代わりを差し出すのは難しい。主に選んでもらうために、館の庭に村人を並ばせるだけの権威を彼は失っていた。主の歓心を得られそうな健康な若者や美しい娘を館に招集する力はもうない。主の期待を裏切ってしまった罪悪感が浮かぶ。
それらを読み取りながらアレフは決心がつかないでいた。

しもべがゆっくりと頭を元に戻す。申し訳なさそうに目が伏せられる。悲しみと絶望、そして足もとの崩壊感。
慈悲を…というドルクの言葉を思い出した。
アレフは痩せた肩に手を伸ばした。
触れた瞬間、しもべの体が緊張する。
「いいのか?」
しわ深い顔が幸せそうに輝いた。

もろいガラス細工を扱うように注意深くしもべの肩に手を置き、引き寄せる。かつてアレフより逞しかった腕は細く、胸も薄くなっていた。手を回しそっと抱き締めた。しもべが目を閉じて再び頭を反らす。たるんだ皮膚が昔の感覚を思い出して期待に震え緊張している。喉ぼとけがはっきりと上下に動いた。脈動する紅い流れの位置を確認しながら、欲求のたかまりを覚えてアレフは微かに眉を寄せた。

城の地下で哀れな捕虜から満足するまで飲んできたのに、この枯れたしもべからもむさぼろうとしている偽りの本能に嫌悪感を覚えていた。結局血さえ味わえるなら相手が誰だろうと気にしない怪物が心に棲んでいる。悲鳴を上げ抵抗する侵入者でも、黙って従順に喉を差し出す臣下でも。

少し相手の体を傾ける。心得てしもべが首をそちらへ少し曲げる。すでに繋がっている心に恍惚とした感情を呼び覚ました。痩せた体から緊張が解けていくのを感じながら首筋に顔をうずめる。唇で細くなった血管を探り、痛覚が麻痺しているのを確認してから、牙を突き刺した。

溢れる血の味と香りに歓喜する。それを相手に伝えながら冷静さを失わないように、気を引き締める。
一口分飲み下したところで中断する。治癒の呪をかけながらしもべには喜びを伝える。枯れた喉から呻くようなため息が漏れた。
傷口にしみだすわずかな血を未練がましく舐めとってから、痩せた体を静かに抱き上げた。

至福の笑みを浮かべた軽い体を寝台に運んだとき、罪悪感が込み上げてきた。すべてはニセモノだ。しもべが感じている快楽は、アレフが昔植えつけたものだ。血をすすんで提供するよう快楽中枢をいじって作り上げた、不自然な陶酔。

しかし、それはアレフ自身にも言える事かも知れない。不死の肉体を保持し力を得る為の生者の血。それを求める渇望と血をすする時に覚える歓喜。全てはためらいや罪の意識を乗り越える為に植え付けられた不自然な欲望かも知れない。

しもべの幸薄い生涯に哀れみを覚えているのに、口の中に残る血の味を楽しんでいる、飽きを知らない欲望。
真始祖ファラの心配そうな顔を魔法陣の中から見上げた時、この体に変化して、初めて目を開いた時から、既にあった衝動。

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