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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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魔物と従者が代理人の家に消えると、酒場にため息が満ちた。代理人はなぜ奴が来ることを知らせなかったのかと、老人は腹を立てた。山の城主が下りてくる前には必ず知らせがあるはずだ。代理人は、城の主に呪縛されその意志を感じ取って村人に伝える役をしていたはず。

いや、代理人は多分、村人に知らせるのを諦めたのだ。
あのテンプルの3人を歓迎した村人が、主を迎えるために代理人の屋敷の掃除などするはずがないと。また少し不忠な村人への仕置と言う心積もりもあったのかも知れない。城主の滅びを願った村人への報復はなんなのだろう。

「あ、ドルクさん」
窓を見ていた者がつぶやいた。ヒゲの男がこちらへやってくる。途中、ロップの店によるのが見えた。数瞬の押問答の後、よろず屋は扉を開いた。普段通りにしてテンプルの連中に力を貸した事には口を拭おうと言うのだろう。

酒場の店主も目配せをした。そしてカギを開ける。
「いいか、いつも通りにするんだぞ」
抗議しかけた者も、代案が無ければ黙りこむしかない。

いつも買物を済ませた後、ドルクは酒場に立ち寄り、亭主に噂話を聞いていく。そんな事をせずとも様々な神秘的な手段で、作物の出来も気象のことも知悉しているはずだが、村人の考えを、自らの主の評判を知るためなのだろうと、老人は思っていた。

扉が開く
「いやあ、久しぶりだね」
陽気な声がした。少年の頃家に姉を迎えに来たときは丁重で礼儀正しい態度だった。そして普段は気さくで陽気な男を“演じて”いる。
少なくとも老人にはそう見えた。

「これは、ドルクさん。2か月ぶりですか」
店主がどこかぎこちない笑みを浮かべる。麦から作られた発砲酒を注いでいる手も微かに震えている。

「こないだ城に3人の招かれざる客がきましてねえ。この村にもご迷惑をおかけしませんでしたか?」
酒杯を受け取ったドルクの放った言葉は酒場の全ての人々を一瞬凍り付かせた。

「え、ああ、あのテンプルから来たと言ううさんくさい連中ですか」
店主が無理に笑顔を造る。
「ああいう詐欺師みたいな手合いは好きにはなれませんな」
「ほう」
「大言壮語がはげしくて、妙なまやかしを見せて酒や食い物を要求しました」
一番熱狂していた男が言う。
その豹変ぶりに老人は呆れて悲しくなった。
あの3人は多少尊大だったが、命懸けで村の為に戦おうとしていた。その心意気に老人は打たれたのに。

「まあ、そうでしょうね。テンプルは魔物を追い払うと言っては、多額の寄付や寄進を要求するらしいですよ。断わると、魔物を召還して人を殺させるといいますし」
「え?」
ドルクの言葉に酒場の者たちが驚く。

「いやあ、連中の召還した魔物どもの気色の悪いことと言ったら…、城にはいりこんだ奴らを一掃するのにえらい手間がかかりました。あんなのがこの村を襲っていたかも知れないと思うと、いやあ、ぞっとしますね」
麦酒を飲み干してわざとらしく体を震わせてみせる。

「で、その3人は?」
恐々と誰かが聞いた。
「私としては、あんな人の姿を借りた災厄はさっさと始末したほうが、世の中にとって、いいと思っているんですが…アレフ様はお優しいですから。
命までは取らず、“口づけ”だけにとどめられました」

ならば死と同じではないか…。老人は思った。生命力を血とともに吸い取られ半病人となった奴隷。城主の意のままになる人形にも等しい。

「数日したら城の者にこの村へ送らせるつもりなんで、クインポートから船にのっけて送り返してやってください。費用は代理人に預けてありますからね」
ジョッキをかえしドルクは立ち上がると、代理人の屋敷へ戻っていった。

「おとがめナシか」
 店主が息を吐いた。
「あいつらも、ホント、口ばっかりの連中だったんだな」
「金をとられるのか」
ざわざわと話し始める客たちには、もう城主に逆らおうと言う気概の気配すらない。

40年の歳月がはぐくんだ反抗心は、たった一度の城主の来訪で朝露よりもはかなく消えた。老人は下唇を噛んだ。しかし今、代理人の屋敷に押しかけて、光を避けて地下室で眠る魔物の胸にクイを打つ度胸はない。
「姉さん…ごめん」
かすかなつぶやきが老人の唇から漏れた。

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