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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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女性
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日あたりの良い北向きのテラスから、モルは方形の中庭を見下ろした。
「200年…招待を受けてからずいぶん時が過ぎましたが、やっとあなたの城館に来ることが出来ましたよ」
地を這うコケモモ。寒冷地でも育つ白バラの茂み。他に見るべきものはない。

南の書庫から持ち出した手書きの書物に視線を戻した。時と空間についての思弁的な論説。線の細い小さな文字に、顔がほころんだ。
「懐かしい。それに新しい」

容姿だけが取り柄だと、周囲もご自身も、低く評価されがちだった。実際、会うまでは軽んじ、内心あざ笑っていた。

ファラの歓心を買うために、容姿と知能に優れた配偶者を求めて子を成すなどという、地道な方法を選んだ愚直なイナカ者。イモを改良するように、わが子を並べて跡取りを選んだに違いないと。
 
だが、ウェゲナー家は成功した。泥臭い方法で20年の間にファラの弟子を2人も輩出してのけた。さげすみと嘲弄は嫉妬の裏がえし。それに…

「私の話を初めて真剣に聞いてくれた太守」
人間相手の論戦に負けた悔しさを、尊敬に昇華して乗り越えた柔軟な不死者。8番目の弟子であるかのように、私の助命に奔走してくれた、ファラの秘蔵っ子。

人などが語る夢を支援してくれたのは、私の弟子たちと同じように若かったから、でしょうね。あなたもお父様も当時は300歳…人の命を手折るのに慣れても、血と共に味わった思いと記憶が澱のように心にたまり、なにがしかの影響を受けるお年頃。もしかすると、
「初めて食らった人間の名を覚えているくらいに、ウブだったとか?」

その気になれば数日で覚えられる、簡略化された表音文字と数字。教会に人を集め、1人の教育官が1度に大勢に、それを教える。

誰もが文字を書いて読める様になったら、みんなで、どうすれば幸せになれるか"考えられる"ようになる。

世界中の人が同じ数字を使えば、契約や取引が、そして貿易がもっとさかんになって、豊かさを分かち合える。

そんなタワイない夢を本気で信じてくれた理由。あなたが味わってきたこの大陸の人が、みんな貧しくて不幸だったからでしょうか。

でも、世界中に教会ができて、商人たちが大きな取引をするようになっても、富んだのは最初から豊かだった中央大陸と森の大陸でしたね。

それにしても、商人たちの信頼を得た教会が、遠方の取引には欠かせない為替を管理するようになり、その保障となる黄金を、地下の保管庫に預かることになったのは嬉しい誤算でした。

ひそやかに営む金融業で教会の活動資金は膨れ上がるし…厳重に護られ、不可侵とされた地下の金蔵は、公に出来ない術を研究する場所として、うってつけでした。

ホーリーシンボルを始めとする破邪の術は、すべて教会の地下金庫で開発されたもの。
「あなたは知らずに手を貸していたわけです。ご自分や友人や愛する者を滅ぼすテンプルに」

でも、最初の夢は叶ったでしょう。
私がファラを滅ぼしたあと、取り巻きどもは東大陸に逃げ込んだ。連中が持ち込んだ資産と職人たちのお蔭で、東大陸は今、繁栄のただ中にある。

「夢…か」
もちろん、あの頃は私も信じていましたよ。皆が幸せになれる道があるはずだと。いや、信じていたのは、生意気にも私を抑え込んで、知識だけを利用していた、開祖モルですがね。

「区別するのはおかしいですね。私だった者の全ての記憶は、欠けることなく受け継いでいるのですから」

ファラに両腕を奪われた私のために、あなたは逃げ散った弟子たちを探し出してくれた。聖騎士の祖となったガディと、聖女の称号をはじめて名乗ることになるウェデン。2人に私が釈放される場所を教えた。一昼夜、飲まず食わずだった私のために、壷煮の牛乳がゆとバフル産のワインを託してくれた。

「あの白ワインは本当に美味しかった。まさに命の水でした。
いつかお返しをしたいと思っていたんですよ」

父親を滅ぼせば、引き継ぐためにあなたは目覚めさせられる。そう思って、あなた好みの若い司祭を、聖騎士と聖女に託しました。
「40年ぶりの命の水…気に入ってもらえましたかねぇ」

それにしても、スフィーで噛み跡のある司祭を見たときは驚きました。記憶を戻す術をかけて、あなたが私を追って来ていると知った時は、胸が高鳴りました。あれから夜毎《よごと》、あなたの襲撃を待っていたんですよ。

でも互いに旅の空の下では、すれ違うばかり。なんだか男女の恋を描いた、ありがちな人形劇でも見ているような、もどかしい日々でした。でも…
「ここで待っていたら、もうすれ違いはないでしょう?」

門番や通いの女中を殺したのは申し訳なかったと思いますよ。普通、ヴァンパイアの棲み家への招待状など受け取ったら、腕に覚えのある用心棒を集め、幾重にもワナを仕掛けて待ち構えていると考えるものです。
「まさか“招待”を本来の意味で使っていらしたとは」
そういう素直で単純なところが、実にあなたらしい。

「それにしても…遅いですね」
クインポートや、この城の惨状がまだ伝わっていないのでしょうか。麓の村の代理人から心話を受けたら、すぐにも飛んで来ると思っていたのに。

ドラゴンの生き残りをてなづけて空を駆けているとウワサを聞きました。それに、森の城にいったなら、転移の呪も見たはず。あなたなら解いてモノにしていると思ったのですが。

「もしかして、心話の通じない場所におられる?」
始原の島。ホーリーテンプルを守る強力すぎる結界の内なら、あり得るかも知れませんね。

「吸血鬼を倒すのだと意気込む若人たちの夢。富や地位を求めていがみ合っていた老人たちの野望。全て無残に食い裂かれましたか」

せっかく手に入れた世界の中心ですが、いた仕方ありません。それに私さえいれば、テンプルは幾つでも、何度でも作り直せる。
「生意気なメンターに、もう会えないのは残念ですが」
お互いに帰る場所を潰しあったって事で、恨みっこなしでしょう。

さて、日がだいぶ西に傾いてまいりました。
単に領内でお休みということなら、そろそろお目覚めになる刻限。私の訪問と、留守をまもる衛士の死に様を知るはず。あなたは怒るでしょうねぇ。

なるべく早く、怒りに任せて私の最高傑作たちと戦い、ここまでたどり着いてください。

もし数日以内に来ないなら、あなたの大切なテオを、殺して殺して殺し続けて、繰り返される断末魔の叫びで、呼び寄せることも考えなくてはなりません。

あなたの長年にわたる親切と友情に報いるためにも、私のこの手で、滅ぼしてさしあげたいのです。
灰の一粒も残さず…完璧にね。

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