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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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白茶けた岩の間をハイマツが緑で埋める山肌に、急な坂道が刻まれていた。馬1頭、走りぬけるのがやっとの道ハバ。登っていくと、朝もやの向こうに背丈の3倍はある滑らかな石壁が見えてきた。道に迫る石壁の間に四角い闇が開いている。

城へ通じる隋道。その前に、ワーウルフが1頭、待っていた。鮮やかな黄色に黒の鉄片が縫い付けられた布ヨロイ。大きなハチに見えた。
「お待ちください。まだ歓迎のお支度が整っておりません。1度、カウルの村にお戻りいただけませんか」
獣の口がつむぐ言葉は、くぐもっていた。

「…つまり、アレフは留守ってことですか」
モル司祭は、ワーウルフを指差し、俺に笑顔を向けた。
「こいつを殺しなさい、テオ」

背中の剣に手をかけたが、抜けなかった。
「何で…?」
「じゃあオーエンでいい。こいつを殺って下さい」
聖騎士が銀の剣を抜いた。

戸惑っていたワーウルフが飛び退り、四角い闇に消える。眼をこらすと黒い槍を壁際から取る黄色いしまヨロイが見えた。オーエンが突っ込む。金属がぶつかり合う音がした。

「港に降り立った時から、戦いは始まっているんですよ。この城内にいるのは、全て敵です」
そうだ。あのワーウルフはアレフの手下。倒さなきゃ、ティアを救えない。

剣を抜いて四角い闇の中に足を踏み入れた。薄暗い中で、オーエンとワーウルフがやりあってる。間合いの違いと地の利でオーエンは攻めきれないでいた。

身をかがめて大剣を抜いた。この武器なら槍の間合いでも、届く。石の床を蹴って、突っ込んだ。オレのほうに向いた槍の穂を、横合いからオーエンが脇に押さえ込む。動きが止まった獣人の胸を、大剣で貫いた。

骨が砕けつぶれる嫌な感触と歪んだ悲鳴。
「やった」
剣を引くとワーウルフはくたりと倒れた。毛が抜けて鼻が縮んでいく。死に顔は人。頭が薄くなりかけたおっさんだった。最期は呪いが解けて元の姿になるよう定められているらしい。

「まだです」
真後ろからモルの声がした。胸の大穴が少しずつふさがっていく。おっさんの指が動き、目が開いた。
「くたばれ!」
オーエンがおっさんの首に剣をつきたてた。ヒュッと息がなる。今度こそ…だが、剣を抜くとまた、キズが治り始める。
「不死…なのか」

オーエンが胴を両断しても首を切り落としても、頭を潰しても、ずたずたに切り裂いても、血が集まり肉片はうごめき、くっついて再生しようとする。かき出した腸の断片が、うごめき1本に繋がっていく光景から、目が離せない。

「ああ、わかりました」
モル司祭が血だまりに浮かぶ腕を見下ろす。切り落とされた手首を足で踏みつけると短刀を振るった。指が落ちる。中指を拾い上げ、指輪を抜き取った。

うごめいていた肉塊が静かになった。
「死ねない呪いがこもった指輪です」
軽く投げ渡されたのは血色の指輪。宙で受け取ってドキリとした。同じものがオレの指にもはまっている。指が太くなっても食い込まず、外れない紅い指輪。確かティアの指にもはまっていた。

「たぶんアレフの魔力を受けて、生命力に変える術具でしょう」
肩をすくめると、モル司祭は床に溜まった血を指につけ複雑な魔方陣を描き上げた。

もう1つの塩で描いた円の中に入り、ルシウスやテオも側へ来るよう手招きしてから、呪文を唱えはじめた。長い詠唱。赤い魔法陣から気味の悪い煙がたちのぼり形をなして行く。一抱えはある虫。硬そうな大トカゲ。見たことの無い生き物ばかりだ。

モルが塩の円の中から小瓶の粉を降りかけ、紅い石をかざす。固まりかけていた獣や太いミミズが、崩れて混ざって、かたまった。現われたのは寄せ集めの生き物だった。こいつらはオレに近いモノだ、そう感じた。

モル司祭は次々と怪物を魔法陣から呼び出し、異様な姿に混ぜて固めて、城の奥へと向かわせた。吐き気のする行進だった。

闇の向こうで、争う音と悲鳴が聞こえた。
「行きましょうか」
塩の輪から出て、モル司祭が笑う。剣をぬぐっておさめ、ランタンに火を入れて、隋道の奥へ進んだ。

掲げたランタンの灯に、引き裂かれた大コウモリや、食い裂かれたオオカミが照らしだされる。人と獣の中間の死骸。侵入者をはばむ落とし穴の底であがく異様な怪物。それらが暗闇の中からむっとした血の匂いとともに現れた。人の遺体としか思えなものもあった。手にはホウキ…掃除婦かもしれない。

城は廃虚じゃなかった。でも荒らされ血と死体だらけ。動いているのは異形の怪物とオレたちだけ。恐れていたヴァンパイアの襲撃はなかった。アレフは仲間を増やそうとは思わなかったのだろうか。

少しマシな地下室で棺を見つけた。空っぽだった。
「やはり戻ってはいないようですね。では、待ち伏せといきましょう」
モルが笑う。
「テオ、まさか怖じ気づいたのではないでしょうね」

急いで首を横に振った。でも今までの出来事に…殺戮に、心が悲鳴を上げていた。なぜかアレフやこの城の者より、召喚された怪物どもやモル司祭のほうが恐ろしかった。

「あんな怪物を召喚して、大丈夫なんですか」
もし、城の外へ出て、村を襲ったりしたら。
「ここでアレフがしていた悪事に比べれば、たいした事ではありません。大きな悪を滅するのに正攻法だけでは無理です。我々はか弱い人間なんです。あらゆる手段手を駆使しなくては。この大陸に夜明けをもたらすためですよ」

モル司祭が暗がりの中で手招きする。従って降りた先に地下牢があった。いくつもの鉄格子が並ぶ暗い通路。森の城の地下にもあった。さらわれた村人が閉じ込められていた。でも、ここには誰もいない。

「アレフの食料庫ですよ。気が向いたときに楽しめるよう、人間を閉じ込めておく地下牢。やつの食欲を満たすためだけに、捕らえられた罪もない人々の、絶望と無念が石壁に染み付いています」
なえかけていた、怒りがかき立てられる。

「あなたが負けたら、ここは“順番”を待つ人間でいっぱいになる。この大陸の人々はいつ狩られるかわからない、不安な夜を過ごすことになる。ずっとね」


城の上の階は、静かだった。城を守る者とモル司祭が召喚した異形の怪物との攻防は、主に地下で決着がついたらしい。今はもう、争いの音はない。

むき出しの石の壁。荒削りのアーチ。簡素な木の燭台。錆びかけたよろい戸から日の光が糸の様に入り込んでいた。
荒れた森の城にはあったタペストリーやカーテン、華やかなガラスの大窓は見当たらない。

1階の台所には茹でかけの牛肉。すぐ側の倉庫には酒樽と麦の袋が積み上がっていた。棚には硬いチーズがならび、くんせい肉がぶら下がっている。木箱に詰ったイモと干した果物を見つけた。ねばつく甘味が、落ち着いた気持ちを思い出させてくれた。

2階の食堂と客室は宿屋の様に整えられていた。新しいシーツと暖炉の横に積み上がった薪。突然、住人が消えてしまった昔話の村を思い出した。

3階のホールは明るかった。太く無骨な柱が邪魔だったけど、ここにはガラスを贅沢に使った窓があった。
「ここで待ちましょう」
モル司祭の言葉には、心から賛成だった。死体と血と闇からは、なるべく遠ざかっていたかった。

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