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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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テオは腰のベルトを締め直した。鎖帷子《くさりかたびら》は肩がこる。けど両手で剣をふるうオレにとってはコレが盾の代わりだ。弁当食うあいだは外していた手甲と足甲をつけ、鉄兜をかぶる。最後に剣をかたげて振り返った。

「パーシーさんも言ってたよ。前の時は出会うヴァンパイアを片端から滅ぼしてたから負けたんだって。敵の数が多すぎて疲れちまったんだ。だから俺たちは、あいつらの首領だけを狙う」

ダーモッドは矢を一本一本確かめた後、弓のツルに滑り止めをぬり、皮の胸当てと手袋をつけていた。
「オレの背中を射たないでくれよ」
「大丈夫ですよ、あなたが相手の動きを止めてくださるなら」

ティアって子は髪を三つ編みにして、ヘビのとぐろみたいに後ろ頭にまとめていた。スタッフを軽く振るのを見て安心した。自分で自分の身ぐらいは守れそうだ。

不安なのは鋼の手甲だけをつけて、水晶玉に向かって何かつぶやいてるアレフ。魔法士のクセに態度や言葉づかいは偉そうだ。そのワリに、ビビってやがる。泥玉こねて呪文を唱えてオレとソックリな影を作ったのは正直すげぇと思ったけど、戦いの役には立ちそうにない。

「幻術で包みました。声は誤魔化せないので結界を出たらお静かに」
「あれは? ケアー介した視覚とかの共有」
「それは城に入ってから。長く心と感覚を繋げていると、色々と不都合が」
「よくわかんねぇけど、口きかなきゃ見つからないんだな」
「…多分」
やっぱ頼りない。

草を静かに踏んで城の南側にまわった。城の影に入ると、暗くて足元もおぼつかない。
(ここに石段。そして壊れた扉がございます)
これはダーモッドの声かな。力強い手に引かれて、足先で探りながら階段を上がった。

風の匂いと足元の感触で、城の内側に入ったのはわかった。何も見えない。明りが欲しい。敵は夜目が効く。これでもし不意打ちされたら、全滅だ。

最初にぼんやり目に映ったのは、大きな調理用テーブル。水がめ、壁にかけられた大小のナベ。壁の白いしっくいと黒い木の枠。暗がりに炉。天井から完全に干からびた鹿の半身が下がっていた。ここは台所だったらしい。

目をこらすと床に敷かれた薄いワラや、散らばったソバの粒まで見える。驚いた。目ってこんなに慣れるもんなんだ。
(そんな訳ないって)
「ひっ」
耳元どころか、頭の中にティアの声が響いて、テオは声をもらした。

(静かにして。これは一種の魔法。この心の声は紅い指輪を介して送ってるの。伝えたいって強く思いながら考えると相手に聞こえるらしいよ。指輪してる同士なら)
こうかな。ダメだ。伝わってない。

伝えたいって思いながら…
(こんな、感じか?)
(うん、上出来)
ティアに頭をなでられる光景が脈絡もなく見えて、焦った。
(伝わるのは言葉だけじゃないけどね。いま見てる台所の様子も送ってる。これはテオが目で見てるんじゃないんだよ。見えてるはずの物を頭の中に直接映してるの)

まさかと思って目を閉じた。
(見えてる…目をつぶっても)
奇妙だ。でも違和感はない。
(これで、視覚だけは互角。でも油断しないで。ヴァンパイアは耳もイイから)

うなづいて、なるべく鎧や剣を鳴らさないように静かに進む。
城は立派なのに狭い廊下だ。ゆるやかに曲がってて先が見通せない。外れかけた扉の奥は倉庫か物置。

行く手に階段が見えてきた。
(ここは上だよな?)
そう確認した時、何か青白いものが階段から跳び出してきた。とっさに剣を抜こうとして…

ガツン。
火花が目を射る。手がしびれる。刃先が石壁に食い込んでいた。鼻の丸いおっさんがせまる。廊下の狭さを忘れていたテオをあざ笑う、その口元には鋭い牙。

テオはとっさに体を回転させた。剣は壁をえぐり自由になったが、背中を無防備にさらしてしまうはめになる。それでも諦めず、振り向きざまに、背後に迫る敵をなごうとした。

肩を殴られた。変な音がした。剣から片手が離れる。腕1本では大剣は支えられない。威力を失った刃先は、おっさんのたるんだ手で、掴み止められた。
「お互い生身なら、ワシはかなわなかったろうが…な」
剣ごと突き飛ばされた。尻もちをついたテオの目に、おっさんの指先がせまる。

突然、おっさんの丸い鼻に虹色のナイフが生えた。頭上を黒い塊が跳び越える。おっさんの顔をナイフごと蹴ったのは、アレフか?床に倒れ、柄まで鼻に埋もれたナイフを抜こうとあがく無防備な胸に、1本の矢が突き立った。

「悪く思わないで下さいよ」
いつの間にかすぐ近くに来ていたダーモッドが、灰と化していくおっさんに一礼した。服も骨も灰になって、残ったのは虹色の柄のナイフと、矢じりが銀色に光る1本の矢。

「この下って牢屋だっけ。見張り…かな」
ティアがナイフを拾って、ソデをまくりあげ、二の腕のベルトに収める。法服の下に刃物ってのが、妙に色っぽかった。アレフが嫌そうに、矢羽をつまんでダーモッドに返していた。

「虜囚を助け出すのは後回しでございます。我々の侵入が知られた以上、一刻も早く目的の場所へ」
「けど、肩が」
外れ砕けた肩にティアが触れた。呪とともに肩が痛く熱くなり、やがてむずがゆくなった。

「…治った、のか」
「喜ぶ前に、動くかどうか確かめてよ」
 言われて、尻もちをついたまま、肩を回した。
「なんともない…実は凄い聖女だったんだな」
得意げに胸をそらす笑顔が、輝いてみえた。

「それより、使用人用の狭い通路で大剣を振り回すのは感心できません。これをお貸ししましょうか」
ダーモッドがベルトごと、もろばの斧をよこす。それは木を倒すためのものではなく、人の命を断つための武器だった。

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