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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「さっきさあ、森に立ってたハズなのに、体が浮いたと思ったらココに来ちゃってたよね」
手についたパン粉とシチューをなめとっているティアが、次に放つだろう言葉は予想がつく。アレフは先回りして結論を告げた。
「不可能だ」

「仕組み、わかんないんだ」
「あれは実際に見知っている場所か、血の…」
テオがいると話題に制約が増える。ドルクに2枚目のパンを要求している無邪気な剣士を目のスミで捉えながら、言葉を選んだ。

「心が通じ合うほどに親しい知り合いがいる場所にしか、行けない術法だ。私はこの城に招かれた事がない。それにこの人数を包む空間を入れ替えるには力がかなり要る。結界の問題もある」

「不意打ちがムリなら、やっぱオトリかな。異界の生き物の召喚…はイヤなんだっけ。じゃあ、バフルでやった手は?」
既に不死化しているものに、重ねてビカムアンデッドをかけてどうする。

「城全体にホーリーシンボル」
そっちか。中庭からあふれた無慈悲な光柱と、余波で焼かれた肌の痛みが鮮やかによみがえる。だが、この城全体となると、ティアの力でも浄化しきれまい。

「生殺しは賛成しかねる。死に物狂いの死人…それも理性を失っているとなれば、始末に負えない」
正直、見たくない。それに、なりそこないと違って、やがては回復してしまうはず。

「だいたい方陣の交点、等間隔に10ヶ所も何を埋めるつもりだ」
「まわりの木、ドライアドに増幅してもらうの」
理にはかなっているが、彼女らは首を縦にふるまい。
「樹木そのものに害はなくとも、ホーリーシンボルは土と精神体を変容させてしまう可能性がある。断られるはずだ」

「じゃあ、どうしたらいいわけ?」
出来れば何もしたくない。自分と同じ不死者とは戦いたくない。キニルでは手痛い敗北を味わった。怒りで冷静さを失っていたとはいえ、覚悟もなく挑んでいい相手ではない。頭と胸を破壊し灰化させなければ止められない相手と争うなど、正気の者のすることではない。

「…あんたに相談したあたしがバカでした。じゃあさ、この建物そのものはどうなってんの」
水晶球を介して、ケアーに訊いてみる。いびつな台形が青白い光によって地面に映し出された。

「北の大きな塔と方形の建物は透過壁を多用した温室と研究室。ここから見える東の門を備えた2つの塔と棟、南の湾曲した棟と小さな塔は、使用人や贄のための施設。中庭を越えた西の棟と、塔と呼ぶには太すぎる丸屋根は私室に広間に客室」

「便利なモンなんだな、水晶玉の占いってヤツは」
覗きこんでうなづくテオのカン違いを、正すべきか悩んでいた時、ドルクが傍らに置いた弓から緑の光が生じた。漂ってきたホタルの様な光は、図の上で空気を震わせ高い声で語りだした。

「これは過去の姿。外見はあまり変わっておりませんが、主を失った建物はゆっくりと死ぬもの。床や階段の一部は崩れ抜け落ちております」
ドライアドだとは思うが、人の姿を取れないのは結界をぬけた際に力を削られたのか、他の樹の幹からなる弓を介しているので、全ての力を出せないのか。

「そりゃ、20年もほったらかしじゃあね。で、バックスはどこにいるの?」
ティアの問いに緑の光が明滅する。図では西の塔の2階部分。
「ここの広間で、配下の者を集め王のまね事をしています」
「こっそり近づくとしたら?」
光が移動する。
「南棟の地下通路か、西の壁から」

「やっぱりオトリがいるわね」
「二手に分かれるのは上策とは思えませんが」
最後のパンに、つぼをさらえたシチューをのせながら、ドルクが口を挟む。

「この結界、使えると思うんだ。泥で作った人形に爪とか髪を仕込んで分身作る術ってなかったっけ。声はお節介なドライアドさんにやってもらって、ずっとピクニックしてるように見せかける。で、あたし達は幻術で身を包んで南棟から入る」

ドルクの手から褐色の汁と焦げを盛り上げたパンを奪いながら、ティアが笑った。
「たくさん居るみたいだけど、手強いのはバックス自身と、その取り巻きだけでしょ。なるべく他の者は適当にいなして、魔力も体力も温存。始祖だけをブチのめす」

胸が掴みつぶされるような痛みを覚えた。
「目の前でトドメを刺さなければ、なんとか耐えられるよね?」
「わからない」
手足のふるえと、吐き気をこらえた。

唯一の救いは、始祖が違う血族の心は読めぬこと。人や“なりそこない”の時と違って、手にかけた者の断末魔の苦しみや絶望を、じかに感じる事は出来ない。

まさか、こんな時のためにわざとファラは…いや、そんなハズはない。
アレフは強く首を振って否定した。

「髪をひとすじ下さい。形代《かたしろ》を作ります」
今は考えたくないことより、泥をこねることに専念する。人型にする時間は無い。湿った黒い土を握りしめ体毛を埋め込んで玉にする。方陣を刻み呪を唱えて当人の影に置く。

まずは、笑顔でパンを口に押し込んでいるティア。そして控えめに微笑むドルク。黒い影からなる分身は月の光を透過し、動かず表情も変わらずまばたきすらしない。なんとも不出来な身代わりだが、遠目なら…そして結界ごしなら、しばらくはごまかせる。

暑苦しいほどにたくましいテオの写し身を座らせた横に、己の分身を置いた。不安そうな顔をした映し身は、細く白く頼りなげで、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

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