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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「船着場は私だけで行きますね」
「…オレらは宿の方、だな」
ルーシャは仲間3人の背中を見送った。

大湖の北端に位置するエクアタ。宿でも酒場でも、いまは幸運な舟の話で持ちきりだ。嵐に遭いながら大湖を縦断してウォータからきた漁舟《ぎょしゅう》。
どうやら結末はこの目で…
いや、決着はこの手でつける事になりそうだ。

熱い赤土が視界を歪ませる。照りつける日差しが頭を焼く。ルーシャはたまらず露店でヤシ葉の帽子を求めた。緑の幾何学模様を頭にかぶって、湖岸に向かう。

行く手に見えてきた大湖は赤い。流入する川が雨水と共に赤土を運び、嵐が湖水をかき混ぜたのだろう。晴れ渡った空と湖岸に迫る緑が鮮やかに映えて、不吉なくらいに美しい。

湖を見るたびに悔やまれるのは、ウォータでの聞き込みだ。追っている相手を人間だと思いこんでいた。不用意にアニーを同行させた。仲間を、吸血鬼の支配下にある者の目に触れさせてしまうとは。

自分が危機にさらされるのは仕方ない。だが、アニーを巻き込んだのは、失態だ。最悪を考えなかった甘さが悔やまれる。

この先はアニーと私が表に立つ。オットーとハジムの存在は敵に隠し通す。闇に堕ちて間もない吸血鬼だとしても、楽に倒せるとは思わない。待ち伏せや不意打ちといった手が使えるなら、それに越したことはない。

船着場の一角にひとだかりがあった。おかげで幸運な舟は簡単に見つかった。
白っぽい木の舟体。畳まれた灰色の布。破れかけた幌に魚網。ルーシャの目には、周りに泊まっている漁舟と同じに見えた。

まわりには、おのが手柄の様に船頭の勇気と腕を語る者。幸運にあやかろうというのか、舟に触るもの。
賭博師風の男がナイフで舟べりを削ろうとしていたので、一喝して止めさせた。喝采をおくる見物人たちが、船頭の居場所を教えてくれた。


カワセミ亭は風がよく通る開放的な安宿だった。その一室を占有する船頭は、日やけた顔に笑みを浮かべて眠っていた。起こさないように忍び寄って、首筋と手首に目を向ける。

噛み痕はない。だが、大湖あたりのシャツは、エリもソデも大きく開いている。目に付きやすい部位をさけ、別の場所を差し出したのかもしれない。

ルーシャが揺すり起こすと、船頭は不機嫌そうに目を開けた。そして、ヤシ帽子を指差して笑った。法服にそぐわないのは分かっている。だが、相手を笑わせ話しやすくするなら、単なる日除けにとどまらない、なかなかのお買い得品だったといえる。

「オレを雇った黒服か?酔狂でワガママな金持ちの若様だろうよ。せっかくシマウオのイイのを用意したのに。オレの料理を食いやがらねぇ。あんたらの同類じゃないのか?」
ルーシャが宿の者に頼んだ縞瓜を船頭がかじる。頭の上に向けられる目がまだ笑っている。

「あんたが着てるみたいな、灰色の法服きた娘もいたぞ。
あの娘はオレの料理をうまそうに食ってくれたなぁ。ちょっと食いすぎってくらいに」

糧として連れ回されている見習い聖女。確か名はティア。大食いは失った血を補うためだろうか。馬丁の子の読みどおり、まだ殺されていない。転化もしていないなら、呪縛の元を滅ぼせば助け出せる。

「他に気づいた事はありませんか。この先、同僚になるかもしれない、ワガママな金持ちとやらの扱い方を、聞いておきたいのですよ」
「ありゃ役にはたたんよ。寝てばっかりだ。帆柱を外したり、波で跳んだ舟を戻す時は少し手伝ってたが…水をかいだすのは途中でやめちまった。根性がない。多分、修行ツラさに逃げ出しちまうんじゃねえかな」

舟頭が大笑いした時、下から女将が呼ぶ声がした。舟頭に酒手を渡して、ルーシャはハシゴを降りた。

女性のツレが来ていると女将は叫んでいた。だが、下で待っていたのは剣をさし白い布ヨロイをまとったオットーだった。大事をとったのだろう。

配慮はさすがだが、舟頭はおそらく操り人形でない。悪口と低い評価。それが主を守るための何らかの芝居でなければ、だが。

「足取りがわかりましたか」
「紅鶴亭にそれらしい旅行者が入っていくのを見たというものがいた。アニーが確かめた。ウェルトンという名で今も泊まっている」

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