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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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声に聞き覚えがあった。またホクロの男に邪魔されるのか。
他にも気配があるが、もう気にしていられない。

仲間との絆をしのぐ崇拝を植えつけ、全てを捧げ尽くす欲求に駆り立てた、しもべの体温を暗がりのなかで楽しみ、生存本能をも抑え込む狂おしい思いに応える。

ただ喉への口付けは控えた。
見られても多少ゴマカシがきく手首を噛む。

手足の傷のせいか少し苦味を感じるが、喉を滑り落ちる血は甘い。温かな幸福感が広がる。おかしかった世界が、やっとまともな安らいだものに戻った。ティアの声も今だけは愛らしい小鳥のさえずりに思える。

「へぇ、ナットの事、まだ覚えてるヤツいたんだ。出会いはどうあれ後からでも恋は育める…なんてヨタ話を本気で信じるようなバカのことなんか笑い話になって、とおに忘れられてると思ってた。

男ってさぁ、ほんとバカだよね。
自分らの面目がツブされた時は一生かかって復讐するクセに、てめえが女の面目ツブした時は、花や宝石や愛のささやきやらで帳消しに出来るなんて、オトギ話を信じてんだもん。あり得ないって。同じ人間だよ? やり返すまで忘れるもんか」

「コイツが言うことにはだね、お嬢ちゃん。あんたと一緒にいた若いのが、仲間の首に噛みついてたっていうんだ」
「そりゃ噛み付きもするわよ、刃物突きつけられて脅されたんだよ。殺されたくなかったら、有りガネ全部だせって。武器とられてたら、引っかくか噛みつくぐらいしか出来ないじゃない」

なにか雲行きがおかしい。貧血で気を失った男のキズを治癒して、腫れが引いた指からルナリングを抜く。
「あー、でもヴァンパイアがその辺に居たらいいよねぇ。だって海を渡らなくても手柄立てられるじゃない。モル司祭についてったけど、あたし何もさせてもらえなかったし」

柔らかな丸い葉の間から見えるのは、黒光りする馬体と灰色の法服。腰に司祭位を示す赤い紐。さっきまでの非現実感が失せた今は、勝てる気がしない。闇にうずくまり気配を殺す事だけを考える。

「居心地の悪い思いしてモル司祭について行かなくても、あと何年か修行を積んで紐に色がついたら、メンター師も貴女を外に出したでしょう」
「手柄欲しさに街道の賊を相手に暴れたのか」
「あたしは仕返ししたかっただけ。手柄はあんたたちにあげる。あいつら全員生きてるみたいだけど…縛り首か鉱山送りよね」

「やっちまったもんは仕方ないか。教長が心配してたから戻って報告だけはとしけよ。オレとルーシャはちょっと丘の様子みてくるから」
立ち去る気配に胸をなでおろす。
同時に徒労感を覚えた。

私がどうあがいたところで、ティアの望みどおり彼らは殺される。彼女の手にかかるか、司直によって処刑されるかの違いだけだ。

緊張でこわばった指を開き4本の指にまたがる無粋な指輪を外している時、傍らにドルクがひざまずく気配がした。
「丘で倒れている賊の中にその男を置いてきます。おそらく、ろくな尋問もなされずに処分は決まります。罪人が何を訴えたところで聞く耳を持つものは居ません」

「しもべを絞首刑にしろというのか」
「死刑とは限りません」
「今の状態で重労働は無理だ。1日も持たない。護送に耐えられるかどうかも」
「預ける先がなく、旅に耐えられる状態でもないなら、見捨てるしかございません」
「寄付金をそえて施療院に」
「この男はアレフ様のことを知りすぎています。教会に預けるのは危険です」

「それにさぁ、代理人にサイフ掴まれてガッチガチな東大陸の教会と違って、ここの教官たちはすんごく自由だから、寄付金は教長サマの飲み代に消えて、ソイツは野垂れ死にすると思うよ」

いつの間にか背後に立っていたティアの言葉に絶望しかける。だが何か方法があるはずだ。破滅させなくても済む方法が。教会が頼りにならないとすれば…代わりを作ればいい。

リチャード名義の金は本来、贄に志願した者への報酬。長く眠り続けたせいで繰り越されてきた金だ。架空の贄に渡したと書類を整えて偽名の口座に移された公金。元来は、移動費や宿泊費といった私的な目的に使っていいものではない。

この金を使う資格のある者は……


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