首筋に唇を這わせて動脈の在処を正確に探り当て、噛みやすいように首を傾ける。口腹を満たす喜びの瞬間を予感して体が震える。
口を開いて剥き出しにした牙を娘の首筋に沈める。
甘い肌の匂いが濃厚になる。性線も刺激しているからこの匂いは恋する乙女のものだ。一番かぐわしい香り。
これほどまでに上質な贄は久しぶりだ。
歯先に触れる動脈壁の弾力。それを突き破った瞬間、熱い奔流が感覚にまともにぶつかる。
舌先は刺激的な塩味をたしかに感じている。だが口の中を一瞬で満たし内圧を高める夢のように大量の血液は上顎の奥に甘味を感じさせる。飲み下すその熱いほどの温もりが滑り落ち胃にまで甘味が広がる。甘いというより強烈な快楽と幸福感。そして飲み下しても飲み下しても無限のように湧き出してくる。
酔い痴れ食欲だけの存在になったように夢中でむさぼる。命が体の奥に広がる。
もうこれ以上は危ない。
そう告げる理性を疎ましく思いながらも量を絞り始める。
名残惜しく治癒の呪をかけながらも、そうしなければ傷が塞がらないからという大義名分の元にゆっくりと脈動する生命の泉から退いて行く。
最後に僅かににじむものすら未練がましく舐め取った。
けだるいような幸福感。
気を失い、精気を失った娘の頭は口を離すとがくりとのけぞった。
抱え上げると娘は軽かった。血を失ったから……だけでもないだろう。
そっと寝椅子に横たえた。
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