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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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真っ暗ではない。
どこからか漏れる光で、鉄格子がほのかに闇に浮いている。その前にはスープらしきものが入った木製のカップとパンが置かれているようだ。下は乾いた石。便壺は清潔。適当な広さと高さがあり、居心地はテンプルの懲罰房よりはるかにいい。

しかし最悪だ。
彼女が身に付けているのは下着だけ。手に馴染んだスタッフはもちろん法力で強化したローブも剥ぎとられ魔除けの護符の役を果たすものは一つもない。ネックガードはもちろん、指輪から下着に縫い込んだ聖なるシンボルまで奪われ切り取られている。目を閉じると手首が鈍く痛んだ。

あれからどれぐらいの時間がたったのだろう。
彼女が仲間2人と共にこの城に乗り込んだのは、まだ朝方だった。

「簡単な仕事です。眠り姫が二度と目を覚まさないように、棺ごと浄化するだけ」
港町へ向かう前に、モル司祭は笑って3人に命じた。

カウルの村に向かう道中、テンプルからの急使でクインポートに引き返した、25歳の天才司祭には、年齢に相応しくない不気味な威厳がある。

共に聖女と聖騎士に叙任されて以来、同期の腐れ縁やってた私らはともかく、要となる浄化と破邪の術の使い手が、つい1ヶ月前までガキどもに読み書きを教えていた元教育官の新人司祭というのは、あまりに心もとない。まだ、あのムカつく聖女見習いを連れてく方がマシだ…という反論は飲み込むしかなかった。

しかし不安はすぐに消えた。
カウルの村は城に一番近い。そこでの城主の評判は悪かった。
クインポートでもそうだったが漠然とした恐怖と圧力、何より税が心証を悪くしている。バフルのように町全体がテンプルに敵意を示し、領主を滅ぼしたモル司祭にくさった卵を投げつけるような闇に染まった住人たちとは雲泥の差だ。

さすがに魔物のくちづけを受け、村を差配する老人は3人を敵意のこもった眼でにらんでいたが、村人たちは好意的で、3人に食料や宿を無料で提供してくれた。首尾よく魔物の脅威から村を開放すれば、3人は英雄としてありったけの賞賛を得られるだろう。

40年前から眠り続け一度も姿を見せないヴァンパイア…。500年という永い時間が培った魔力は侮れない。しかし長い期間血を吸っていないならその力も衰えているはず。

考えてみると少し奇妙だ。バフルでは城主は頻繁に町に現われ、時々気に入った者を城に連れ去った。生かして返されたとしても当然血を吸われ半病人のような状態になっている。それでも町の人々は肉親や友人の血をすする怪物を慕っていた。

この城の主は40年にわたってカウルの村にもクインポートの町にも犠牲者を出していない。元もと『代理人』と呼ばれている指定した者の血だけで満足し、他の者を襲う事はめったになかったという。しかし実害がなくても村人は城のある山を見るとき恐怖の色を浮かべ、声をひそめる。

恐怖とは知らないものに対する感情。相手を知ればどんな敵も恐くはない。
教科書の戦術心得の一文が思い浮かぶ。

長く権利を放棄すればいずれは忘れ去られ無視される。義務を放り出せば蔑まれる。
要は無責任な城主がその報いを受けようとしているのだ。

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