「すぐにでも事実を確かめたいお気持ちは分かりますが、40年もの眠りの後です」
40年…では、目となり耳となってくれていた代理人たちは、みな寿命で死んだのか。
「旅に出るには準備が要ります」
旅に出る?
代理人を喪った以上、事実を確かめるには実際にそこへいって自分の眼と耳を使うしかない。それに新たに代理人を作るにしても、足を運び、その土地に通じた意思の強い有能な人物を選ぶ必要があるが…
「昔、アレフ様がお作りになられた陽光を防ぐルナリング…」
賢者の石のカケラを利用して作った、夜の結界を生む指輪か。ネリィがまだ人だった時、少しでも長く共にいるために、作り出した他愛無い玩具。あの月色の指輪が必要という事は、今は、昼を夜に継がなくてはならぬほど、時が貴重なのだろうか。
「武器はお嫌いでしょうが…護身用にコレを」
見慣れない金属の道具を渡された。
「この間、侵入した者どもが、妙な生き物を召還しましてね。狼やコウモリどもでは片付け切れなかったのが、まだ城の片隅をうろついてます」
「城に侵入した? 領民たちが抗議の謀反でも起こしたか」
「いいえ。テンプルからきた討伐隊です」
「テンプル?」
耳慣れない単語だ。
ドルクがため息をついた。まるで出来の悪い弟子でも見るような、哀れみの混じった表情。
「教会が裏で密かに作り上げていた組織です。
『人の作りし存在なら、必ず人の手で破れる』
その教えを実践するために作られた、対バンパイア用の武装集団。他にだれが真始祖様を滅ぼしたというのです?」
「…嘘だ」
教会にはずっと目をかけてきた。創成時から庇護し資金を援助し、新たな地への進出を促すために、他の太守に便宜を図るよう、何通もの親書を書いて…
「お疑いなら、彼らに直接お尋ねになってください」
続いて差し出されたのは地下牢のカギだった。死罪に相当する大罪を犯したものが、血と引き換えの恩赦を望む時に入る、あがないの牢獄。
「目覚められたばかりで、ノドも渇いておられるはず」
そうか、さっきから身を苛《さいな》む痛みは飢餓か。
「アレフ様のお命を狙ってきた者どもです。遠慮は要りません」
ふと、ドルクの物言いに引っかかるものを感じた。
「もちろん、武器や護符といった危ない物は全て取り上げてありますから」
「その“テンプル”の者は、私に血を捧げることを納得しているのか?」
盛大なため息とともに、呆れ顔の人狼が首を横に振った。
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