弱弱しく続くノッカーの音に、ドルクが玄関の扉を開いてみると、顔を泣きはらしたラウルが闇の中に立っていた。
一瞬身構えたが、今回は刃物を持っていない。
「殺してください」
「ラウル! どうして」
かけつけた代理人の質問にはすぐに答えず、その場に座り込んでしまった。酒の匂いはしないが、別の何かに酔っているような熱っぽい目をしている。
「この前、俺、逆らって……領主様を傷つけようと……。死罪にもあたる大罪のはず。償うために、カリーナと同じ様に……」
「カリーナさんには死なない程度に血を献上してもらうだけです」
「でも、御領主さまのくちづけを受けた娘は、この世の恋は忘れてしまうと聞きました。……俺のことを忘れて、生きる気力もなくして……カリーナがそうなったら、俺も生きていられない」
「それは……」
ドルクは言葉に詰った。ラウルとの間で育まれた恋情は、魔力で消しさられ、娘の心に今あるのは、主に何もかも捧げたいという破滅願望だけ……そして、この世への執着を失った者達は長く生きられない。
すでに心は失われ、数年後に身も滅ぶのは、傍らにいる恋人にとってむごすぎる仕打ちかも知れない。
不意に呼ぶ声がした。
頭の中に響く主からの用命。食事が終わった知らせだった。
ラウルを代理人に任せ、足早に二階へ向かった。
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