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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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女性
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 息子は健やかに育っていった。美しく聡明に。いつしか執政に追われるロバートの研究を引き継ぎさらに革新的に進める程に。その補佐にドルクがつき、妻がその背後で笑んでいた。

 行き詰まっていた壁を別の視点から鮮やかに乗り越えてみせた息子の手際に感動したロバートは、その成果をファラに書き送った。息子のおかげで研究はこの数十年の内に完成するでしょうと。

 ぜひご子息と一度討論をしてみたいというセントアイランド城からの招待状を持って訪ねたとき、研究室にアレフを呼びにドルクが出てゆき、妻と二人きりになった。

 手紙を読み返した妻が満足そうな笑みを浮かべた。どこか底意地の悪い、復讐を今達成しようとしている女神の顔に見えた。
「ファラ様がアレフを見てどんな顔をなさったか私に教えてくださいませね」
「どんな顔って」
「あと20年待てば良かったと、悔やまれる顔ですわ」

 人選を過ったと、永遠を共に生きる仲間としてより素晴らしい若者を見て、見劣りのするその父親に永遠を与えてしまった軽はずみを悔やむ顔。何百年、いや最近なら千年に一人選ばれるかどうか分からないファラの弟子。そう簡単には与えられない不死の恩恵を間違った相手に与えてしまったという悔恨の顔。

 認めて闇の王に封じた者の息子を、まさか自らの子には出来まい。父の魔力で闇の子となれば、いずれ確執が生まれアレフが滅ぼされるのも予見できるはず。ファラは歯がみしながらアレフの若さと才能が朽ちて行く様を見るのだ。その為にファラの好みにぴったりと合う若者に育て上げたのだから。

 いままで隠されてきた妻の心が、勝利の予感にうち震えて叫んでいた。

 永遠を手に入れ、私の夫を手の届かない場所へいざなったファラ。この世界を全て所有している女王。しかし彼女は最高のものを時間の中に置いて永遠へと去らねばならないのだ。私から夫を奪った罰として。

 衝撃だった。
 たおやかな妻の心に巣くう……捻じれた愛情と混じり合い、分かちがたく凝り固まった憎悪に恐怖を感じた。


 果たしてファラは魅せられたようにアレフに夢中になった。その繊細な美しさと素直さとを愛で、迸るような研究への情熱に魅了されていた。ウェゲナー家が4代に渡って意識的に作り上げてきた美と知性だ。それもファラを籠絡するために磨き抜いてきた血統に咲いた純白の花。

 ロバートは妻が期待する苦悩を読み取ろうとした。だがアレフがセントアイランドに滞在して一か月後、下された決定は誰もが耳を疑うことだった。
 アレフにも秘術を施す、と。

 何も知らないアレフの前で妻は顔を覆った。夫ばかりか息子も奪われたと思ったのかも知れない。今まで生き生きとしていた妻の顔は、ぎこちない仮面の笑みに覆われた。

 最初の衝撃が去った後ロバートにはふつふつと勝利の感激が広がった。数の多くない不死者の王の中に身内が、息子がいるというのはかなりの勢力の拡大が期待できる。新しい所領の分割はなく東大陸の共同統治者という事だがそれは仕方ない。

 昨日、生身でいられる最後の夜を惜しませる為に、キニルの町に宿を取り一晩下がらせた。夜明け前に戻ってきた息子の顔にはいつもの穏やかな微笑があった。

 そして今日、アレフをファラに引き渡した。すでに施術は始まっているだろう。
 ロバートには、未来は満月のように明るく感じられた。



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