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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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女性
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 森の大陸中部では、数年来の大火と水害により流民が大量発生していた。その傷跡はいまだ癒えず、山賊として村々を荒らし回る一団が跳梁していた。
 その中で大きな一団の捕縛に、協力して欲しいと誘われた。

 実際には人を対象とした狩りに近いお遊び。来客の為に用意された余興に近かった。

 勢子としてかりだされた村人の持つ松明の数に怯え、闇の中を見はらかす事の出来る狩人に追い詰められ、拠点とする森の砦に火を放たれて自暴自棄となった者たちを虐殺する。

 あまり乗り気ではなかったが、始まれば本能的な狩りの熱狂と血の匂いにとらわれて、グリエラスとともに大勢を手にかけ、生き残った者は捕縛した。

 捕えた者の中から適当なのを選んで渇きと興奮を宥めようという事になり、縄をかけた捕虜たちを少し開けた場所に集めて検分した。怯えている者もいれば卑屈に笑うものもいる。傷の痛みに呻き座ったままの者や、すでにロバートたちの魔力に捉われ破滅の予感にこう惚と見つめ返している者もいた。
 ほとんどが諦めうなだれた敗北者。惨めな姿だった。

 静かな視線を感じたのはその時だ。自分より少し年下の髭の男。敗北を気にしていない、いやもっと深い絶望に傷つけられ癒されないままそれを乗り越えた強い魂を感じた。誇り高さと粗暴さの奇妙な混じり合い。ロバートを見つめ返す視線は冷静だった。

 お前がオレの死か?
 そう問いかけていた。瞳の魔力を受け付けない毅い意志力だった。

 本物の戦士だと感じた。負ける可能性のない、戦いというより一方的な虐殺で容易に興奮し殺戮を楽しんだロバートとは比較しようのない、はるかに勇気と冷静さを兼ね備えた男。死を目前にしても平然としている。
「名は」
「ドルクと言う、元は猟師だ」
 心を読まれていると知っているだろうに動揺もしない。

「なぜ野盗になった」
「何にも無くなったからだ」
 男の心に土砂に潰れた小さな家の残骸と、一緒に暮らしていた黒髪の若い女、その胸で気持ち良さそうに乳を吸う赤ん坊が電光のようによぎる。

「それが気に入ったのか? 持っていっていいぞ」
 グリエラスがまだ少年といってもいい年齢の若者の二の腕を無造作に掴み、休憩所にと張られた天幕の中に押し込みながら言った。
「おまえを私の物にしてもよい許可をいただいたようだ」
 天幕の中に消えるグリエラスに感謝の意を伝えたあと少し苦笑する。
 ドルクの冷静さが伝染したようにロバートも狩りの熱狂から覚めていた。

「なくなったモノの代わりをやると言ったら、私と一緒に来るか?」
「代わりはない」
「父親が死んでしまった子供を知っている。父親の身代わりをしてみないか。
父親になり切ることは出来ないだろうが、その子を守り育てれば少しは心が埋まる。
どうだ?」
 沈黙の後、男の口許が微かに笑みを形作ったのを見た。

 新しい貿易航路や美しい木細工の家具といったウッドランド土産の筆頭は、ドルクという一人の男だった。山だしそのものの無骨な言葉と物腰を改めさせ、我流だった弓術と剣術を習わせた。

 学はないが非常に頭のいい男で、行儀や言葉遣い武術の習得はそれぞれの教師が誇らしげにロバートに報告してくる程はやかった。野盗の中でも副長格を務めていたらしい。

 憂いを払うと気さくで陽気で気働きの利く、人当たりの良い男だった。帰りの旅のうちに準備はほとんど終わった。

 アレフは最初顔を覆う髭に戸惑ったが、見る間に打ち解けてドルクに懐いた。

 誇り高い妻に限ってそんなことは無いとは思ったが、もはや共寝する事の出来ない自分の身代わりに、空閨を彼が慰める事になっても許せると思った。
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