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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「…方法が無いわけでもありません」
ドルクは心を静め、主に真意を読み取られないように慎重に言葉を選んだ。
「ティアさんの言うとおり、クインポートで船に乗って追いかければよろしいのです。月の中頃には中型の定期船が入港するはず。偽名で旅券を用意させて、人間の旅人を装って海を渡れば」

「そんなこと…出来ない」
「半月、いえ風の良い季節ならキングポートまで10日もかからないはず。2週間ぐらいなら、食事をなさらずともお命に関わるようなことは無いでしょう。
40年ほったらかしにしても、代理人たちはちゃんとやっていてくれました。あと半年ばかりアレフ様が勝手をなさっても、問題など起こりませんよ」

なるべく気楽そうに、なんでもないことの様に言ってみる。実際、バフルの代理人も、彼女が選び出して主に差し出した代理人候補達も、しっかりしている様に見えた。彼らの裁量に任せてしまうほうが、やる気の無い太守に居座られるより遥かにマシだろう。

何より、このまま座していてはアレフ様は確実に滅ぼされてしまう。ならば、領地も立場も捨てて、いまだ混乱から抜け切らない中央大陸に身を潜めるのも悪くない。旅を続け居場所を定めなければ、生き長らえる可能性が見えてくるかも知れない。

「2人とも、こんな所にいたんだ」
声と一緒に、最後の数段をぽんと跳んで、ティアが降ってきた。
「始めて見た。これか御座船ってヤツなんだ。動くの?」
「…海にはもう、出られません」
「なんで。底に穴でも開いてんの?」

わが主に滅びの運命を招き寄せるシガラミ。それを断ち切る斧となってもらうため、機会あるごとに、さりげなくティアに吹き込み続けた。同じ仇に父親を奪われた、貴女と同じ憎しみを心に抱く方がすぐ傍に居ると。貴女の悔しさも哀しみも全て解ってくれる、心強い同志だと。

仇討ちの成否など、正直どうでもいい。真理の探究だけを悦びに過ごしてきた年月の中で、わが主がいつしか薄れさせていった生き抜こうとする意欲。その源となり得るならば、どんな理由でも構わない。色恋であろうと報復であろうと。

「今度、クインポートから出る定期船は、この船より一回り小さいですし、一等客室を取ったところで昔の様な快適な船旅は楽しめないでしょうが…多少の揺れをガマンしていただけるならば」

しゃがみこみ、白砂から浮いた船底をなでていたティアが笑顔で立ち上がった。
「付き合ってくれるの?
よかったぁ、お金なんて持ってないから、また密航でもしようかと思ってんだ」
「またって…家出した時にも?」
「うん、コーカイシとかいう人と一晩付き合ったら、こっそり乗せてくれたの。あとで、船長にすんごい叱られて、一緒に3日間メシ抜きになっちゃったんだよ、ひどいと思わない?」
「ちょっと待って、2年以上前というと…13歳で男と一夜を過ごしたという事に」
「それが、どうかした」
貞操観念の違いに目まいを起こしている主の初心さを、微笑ましいと思っていられない日々が始まる。

来月の大型船を待たず、次の船で出るよう進言したのは、もし正体を見破られても50人が相手なら一夜で制圧する事が可能だからだ。
そうなれば、操船に必要な最低限の船員をしもべとして呪縛し、アレフ様に必要な数人の客を残して、他の乗員乗客全てを海に放り込むことになる…果たして、海賊まがいの乗っ取りを、是として下さるだろうか。

キングポートに無事着いたとして、いつ正体を暴かれるとも知れない不安はつきまとう。明日眠る場所も定めない旅行中に“金では購えぬ食料”を得るためには、強盗同然の行為が必要になる。

はるか昔、山賊の仲間だった事が、よもや役立つ日が来るとは思ってもみなかったが、巡り合わせとはこういうものかも知れない。

ティアはアレフ様を同行させる本当の意味をわかっているようには思えない。
いや、船に乗るまでは、お2人とも解っていないほうがいい。
追い詰められ、ほかに手段が無ければ、出来ないと思い込んでいた事も意外と出来てしまうものだろうから。

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