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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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数ヶ月前から警告があったという。懇意にしていた貿易商の進言から始まり、最後にはバフル教会を通じた無記名の親書が父の手元に届いた。血の絆による情報の即時性とは、無縁な者たちが持ちえる最速の通信手段といえば、烽火塔の色煙と手旗信号。そして7羽編成で海を渡る伝書鳩の通信筒。どちらも教会…いや、テンプルの管理下にある。

おそらくモル司祭がホーリーテンプルを進発すると同時に、複数の経路で警告は発信され、幾つかがバフルにまで届いた。建前はともかく、テンプル全てが不死者の殲滅《せんめつ》に動いているわけではない。

「なりそこないとやりあってる時は、ほとんど何の役に立ってないのに、終わるとなぜか壁に懐いて、一人反省会やってるお宅の坊ちゃん、なんとかなんない?」
「すみません、アレフ様には気配の知覚と読心の区別というのは難しいようで」
地下へ向かう東の階段前で、ティアとドルクが囁きあっている。

来た道順を逆にたどれば平穏に済むところを、わざわざ遠回りして余分な争いは引き起こす。滅びた死人を悼みながら、体力を補充してやっているというのに、聞こえよがしの皮肉を言う。そんな、個性的な聖女見習いも所属している組織だ。多様性に満ちていて当然か。

「真っ暗ね…あ、このランタンに火つけて」
階段に足を踏み入れる直前に、ヒビの入ったランタンを押し付けられた。仕方なくホヤを両手で包み呪を唱え、灯心に火球を発生させる。眩しさに目を背けた瞬間、ランタンは奪われた。

「階段を降り切った3歩先に、落とし穴が」
早足で地下道に下りていったティアが、たたらを踏んで恨めしそうに睨む。
「右の壁に渡し板が立てかけてあります」
「40年以上、誰も落ちなかった落とし穴っと」
「穴が掘られたのは10年前らしいですが」
板を倒し、渡りかけていたティアが引き返してきた。

「そっか、城内の間取りと罠の位置、全部知ってる人間の血を吸ったんだ…じゃ、ハグれた時のために見取り図描いて」
無遠慮に胸元に突きつけられた手帳を、押し返す。
「私からの精神干渉を受け付けてくれたら、ティアさんの頭の中に直接書き込めるんですがね」
「それは、イヤ」
「なら、私の後をついて来てください…もうなりそこないは出ません」
地下はこの城に唯一残された安全な場所だ。彼女が心の中に踏み込まれたくないように、ここの詳細な地図は、出来れば部外者に渡したくない。

統治者が夜にしか現れなくとも、大半の城勤めの者は昼間働いていた。だが夜間も数百人は詰めている。彼らが地下道を抜け城外へ逃れる時間を稼ぐため、小鳥を誘うパン粉のように衛士を配置し、最上階で迎え打つ予定が…禁呪で先手を取られた。
一階にいた者と二階にいた約半数が、突然の死に見舞われ不完全な蘇生を果たし、城内は収拾のつかない混乱に陥った。結局、避難できたのは100人にも満たない。

それにしても、なぜモル司祭は先に父を滅ぼしたのだろう。クインポートからの距離を考えても不自然だ。
能力が低下する昼間は、人々を巻き込まぬよう郊外に設けた寝所を転々としていた父より、40年前から居所がハッキリしていた私を滅ぼす方が容易なはず。力を最大限に発揮できる夜間にのみ首都へ戻る父に、正面から挑むなど…
考えられる動機は力の誇示か。

書斎へは、4つの角を曲がり3つの落とし穴を回避してたどりついた。インクと皮と紙の匂いが気分を落ち着かせてくれる。
磨き上げられた書き物机の上に、水晶球がひとつ、むき出しで置かれていた。呪法をも封じ込めることができる、記録用の術具。
父に命じられてこれを運んだ者は無事に逃げられただろうか。

滑らかな球面に指で触れると、仄かな光を放ちはじめた。水晶球の周囲に小さな方陣が生じる。微かな空気の振動が次第に波長を上げ、音声に変わった。
『さて、何を話すべきか…
いざとなると照れるものだな。
アレフ、これを聞いているということは、眠ったまま滅ぼされはしなかった…何かの偶然か、誰かの差し金で生き延びられたということだな。
そして私はオリジン・ヴォイダーに、いや、モルに敗れたか』

『世界は我らの物ではなくなった。生きる事は、世界を敵にまわして戦う意味に変わった。争いを嫌うおまえが、どこまでやれるか』
目をこらぜば透明な球体の中に、うっすら黒髪の男の顔が浮かんでいる。小さくて焦点が合ってないのか表情も読み取れないが、かろうじて父だというのはわかった。
『テンプルの下で、人々が昔より仕合せになったとは思えぬが…』
小さな顔がゆっくりと首をふる。
『父のカタキを討とうとは思うな…これは、勝手で無責任な願いかも知れん…だが、どんな事をしてでも生き延びてくれ。アレフ…』 

水晶球から光が消える。
おそらく混乱の中、慌てて記録された遺言。
「泣いてるの?」
ティアに問われて、頬をつたうモノに気づいた。
雫をぬぐい、紅く染まった手を握り締める。
「で、どうすんの…また寝るの?」
ネリィの時は眠りに逃げる事が出来た。だが今は立場が、逃避を許してくれないだろう。

「あたしの父さん、殺させたのもモル司祭なんだ」
抑え付けたような低い声と共に、机の上にランタンが置かれた。
「あたし、すっごく憎んでる。なのに、アレフはなんともないの?」
ぞっとするような憎しみの波動を傍らに感じて、思わず身を引く。だが、強引に両腕を掴まれた。女のモノとは思えない指の力に驚いてティアの顔を見る。炎を映した青い瞳がまっすぐに見上げていた。
「あたしと一緒に行こうよ!
モルは、ホーリーテンプルに呼ばれて戻ったんだ。
クインポートで船に乗って、モル司祭を追っかけよう!」

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