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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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一千年前に作られた砦の外壁をそのまま使用している、バフルヒルズ城。その無骨な外観に変化は見えなくとも、内部にはかなり手が加わっている。地下通路は入り組んで迷宮と化し、廊下や上層階へむかう階段の壁には、侵入者からは死角となる窪みが施されていた。

血と共に読み取った衛士長の記憶を元に、アレフは東の大階段の窪みに意識を向けた。怯えと飢えととおに理由を忘れた使命感に取り付かれた、弱々しい心の呟きを感じる。そのまま大人しくしていて欲しいと念じつつ、ドルクに階段の見取り図と共に“なりそこない”の気配を伝えた。
(彼らが戸惑っているうちにティアさんを抱えて素早く登れば…)

「5段くらい上の壁の窪みに2人います」
突然、剣を抜いて叫んだドルクの声に驚く。今は無用な争いの必要などないはず。
「待ち伏せとは、シャレた真似してくれるじゃない」
2段飛ばしのあと跳躍し、有利な立ち居地を確保した上で、立ちすくむ元衛士を打ち倒すティアを信じられない思いで見上げた。

同時に、相棒を助けようと衝動的に出てきたもう一人を切り伏せるドルクの行動も理解できない。相手は剣を抜いていない。いや、彼は日々肉をえぐり腰骨を露出させていく重量物が何なのか、その名前も使い方も分からないまま、大切な物としてベルトに下げているにすぎないのに。

「炎の魔法をお願いします!」
ドルクが振り返り叫ぶ。言葉と意味はわかるが理由がわからない。もう、彼らは敵対する力も意思もない。ただ、恐慌に捕らわれてあがいているだけだ。皮膚が乾ききっている彼らに火球を当てれば、皮下脂肪に燃え移りすぐに灰と化すだろうが…

「使えねー」
吐き捨てるように呟き、ティアがスタッフで足下の頭蓋を砕く。反り返る体を蹴り上げて仰向けにさせた元衛士の心臓を、容赦なく打ち抜いて灰にした後、こちらを睨んでため息をついた。同じく作業的にもう一人の心臓を貫き、首を切り落とすドルクは無言。もしかしなくても“使えない”というのは私への評価か。

「彼らは“持ち場”にこだわっていた。素早く通り抜ければ追ってこない。無駄な戦いは」
「元衛士なら法服を見て突然昔の仕事を思い出すかも知れないし、上の階でも戦いになった時、上がってくるかも知れないじゃない」
冷厳なティアの言葉は正しいかも知れないが、可能性を理由に念のため殺しておくという発想には納得できない。だが、彼女は説得できる相手ではない。もうわかっている。

「剣を抜かぬ者を、どうして斬った? 彼は剣が武器だという事も忘れていたのに」
行き場を失った苛立ちが、ドルクへの非難めいた言葉に変わる。
「思い出すかもしれません。わたくしの戦い方を見て、体に染み付いた技を思い出さないとは言い切れません。彼らにも学習能力はございます。先ほどティアさんが遅れを取ったのも」

「彼にはまだ昔の記憶がわずかに残っていた…それを焼き殺すのは」
「己が何者なのかもわからない不安の中で、飢えや肉体が壊れていく恐怖にさいなまれるだけの偽りの生を、炎で速やかに終わらせるのも慈悲かと」
ドルクの苦しげな表情を見ているうちに、己の正しさの確信が揺らぐ。

「記憶が残ってたら、生身だった頃に戻せんの?」
軽蔑したようなティアの言葉に、反論できないまま沈黙する。
「無理よね。不死化の呪方って、ある瞬間の肉体を変化しないよう固定するモノでしょ。“なりそこない”は壊れかけた体と精神を不完全に固定されてんのよ。その後に受けた傷とか腐った部分は回復呪で治せるかもしれない。でも、正気は戻らない」
彼らを元に戻す手段が無いのはわかっている。無力さに、いつしか足元を見つめていた。

「殺すことが慈悲だとはどうしても思えない。
どんな状態でも、生きられる限りは生きるべきだと」
原則論や理想論でしか言葉を返せない、己の浅さが悔しい。
「そっか…アレフは人を殺さないんじゃない。人を殺せないんだ」

そう、なのだろうか。罪人の処刑命令にサインするのも広義では人殺しだ。人々の中から贄を選び心行くまで味わうのも、遠からず起きる死をもたらす行為といえる。単に人の生命が目の前で失われるのは嫌だという我侭にすぎない。目に映らない場所で起きる死に関しては、時には積極的に加担してきた。

「でも、“なりそこない”はもう人間じゃない。だからといってアレフの同類でもない。もう既に死んでる体が生前の機能を取り戻して動いてるだけ。近いうちに終わるただの現象。火で焼いたって…連中はそれを悲しいとか辛いと思う感覚も失ってる」
確かに、断末魔の時も、彼らは苦しみや痛みというより、単なる反射で動いていたが。
「この先はちゃんと援護してよね」
先に立って階段を登り始めるティアを追う足取りは、ますます重くなっていた。

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