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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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無数の元衛士や城勤め“だった”者達と、砕かれ断ち切られてもなお、生にしがみつこうとアガき続けていた人間の“断片”が、内庭全体に生じた高密度の光に飲み込まれていく。悲鳴も最後の抵抗も…アレフが密かに覚悟していた、滅びる間際に不死者が発する、苦痛や絶望に満ちた心を突き刺す思いの叫びも無く、何もかもが一瞬で消滅した。

方陣の消滅と共に、半球状の空間に封じ込まれていた破邪呪の余光が減衰しながらも天空へ屹立する光柱に変わる。とっさに背を向け顔を庇ったが無駄な行動だったかもしれない。チリチリとした痛みが全身を刺す。
真昼の光などという表現では足りない。黒鉛をも一瞬で蒸発させる太陽本体の顕現。ただし熱量を一切含まない、冷ややかで残酷な、不死者を消滅させるためだけに作り出された、破壊の力。

内庭の土の上には灰の一つまみも遺っていなかった。持ち主を永遠に失った服だけが生々しく散らばっている。その中央で挑戦的な笑みを浮かべるティアと目があった時、人に対しての警戒心が、恐怖に取って代わった。
異質で理解できない思考で行動する、全てを奪う力を持つ存在。

だが、遺された衣類を乱暴にスタッフでめくりあげ、見つけた宝飾品や財布を法服の隠しに入れるのだけは、見過ごすわけにはいかない。次々と湧き出す暗い想像と共に足のすくみはひとまず封じ込めた。風の力を借りて、遺品を踏まないよう注意しながら、ゆるやかに内庭に降りる。

「降りてこられる度胸…あったんだ」
からかうような口調の聖女が紅玉の指輪をつまみあげる。
「それは、ティアさんの物ではないはずですが。先ほどから拾い集めている金品も」
「えー、ケチィ」
スタッフを同僚から奪ったときといい、テンプルの者にとって戦闘と略奪は切り離せないものらしい。ファラ様が永遠の平安をもたらす以前の…人が食料や財貨や土地を奪うために、殺し合いを繰り返していた、野蛮な時代そのままに。

「対価が欲しいのでしたら、金貨を用意します。それは遺族に」
「“なりそこない”退治のお礼は、バフルの教会を再開させるってコトで、オバさんとはもう話しがついてるんだけどな…それに、1つ1つ持ち主確かめて相続人に返すのってすんごい手間だよ。今、人手不足でしょ」
「どんなに時間がかかっても返します。そうやって身近な者がもう戻らないと実感しない限り、前に進めない者も居る…私の様に」

城へ来たのは死に瀕したティアを回復させる為だ。しかし、町の灯を下に見ながら風を抱いて、丘の上の城館へ急いでいた来た時に分かった。本当は何を置いても、ここへ来たかったのだと。

直接、心を父と繋いでいたイヴリン達の喪失感を共有しても…永遠に存在し続けると思っていた父が喪われたとは、どうしても信じようとしない己の未練を断ち切るために。そして、現実を受け入れるために。

「ふーん、実感しに来たんだ。…行ってみる? 玉座の間。多分、モル司祭たちとロバート・ウェゲナー太守が戦った場所」
何らかの証拠があれば諦められるのだろうか。先ほど見たようなホーリーシンボルで倒されたとすれば、灰も何も残らない。身につけていたものが残ったとしても、高価な物は持ち去られているだろう。それでも
「行って、この目で確かめたい」

「そう。じゃ、エスコート代は別途料金ね」
東の棟へ向かうティアの背中に、大きく赤い染みが広がっていた。それを見ても匂いを嗅いでも、何も感じない。単に満足していて今は欲していないから、という事でもなさそうだ。彼女を怖れているのか、あるいは、やっと本当に求め恐れていた真実が目前にあるせいなのか。

土ばかり選んで歩くせいで不規則になった足音が背後からする。だが、ドルクから伝わるのは不思議と明るい喜びだった。

無頓着に衣類を踏んでいくティアが、不意に振り返る。
「なんでマントなんか着てるの? 邪魔でしょ。
なんだか、実体より大きく見せる為に、毛を逆立てて背を丸くしてる臆病な子猫みたい」
「日除け…いえ、偉そうに見せる為かも知れません。臆病という評価には反論しません」
完全に直射日光を防いであった館内であろうと夜になろうと羽織っていたのは、代理人候補達を多少なりとも威圧しようてしての事。臆病だからといえなくも無い。

ただ、建物内に動く者の気配がある。そう簡単に目的は果たせそうに無い。こんな布一枚でも使い方しだいでは、理性を失った死人のツメをかわすぐらいは出来るハズだ。

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