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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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血が出すぎたのか頭がふらふらする。指の感覚もなくなりかけてる。
それでもティアは、囲みを縮めてくる “なりそこない”共の足元をスタッフで払った。破魔の紋がスネを焼き、死人の群れが面白いようにすっ転ぶ。

その隙に這いずって壁際まで逃れた。さっきまで倒れてたところに出来た血溜まりを、掴み合い押し退けあいながら啜る浅ましい姿を油断無く見据えながら、回復呪を再開する。

夕方までに聖水とスタッフで浄化できたのは60体程。日が暮れてからは、血と物音に引き寄せられてきた動く死体どもを、景気よくスタッフで殴り倒しながら、浄化の術を使う機会を狙っていた。

素手の“なりそこない”なら囲まれても怖くない。だから、なるべくたくさん中庭に集めようと欲張りすぎた。破魔の紋を施した法服に頼りすぎてた。まさか剣を扱う知恵が残ってる奴がいたなんて。

ドルクはまだ無事。法服の加護がないから最初から油断なんかしてなかったし、のろまな“なりそこない”なんてワーウルフの敵じゃない…と、思う。でも、数が多いせいか、だいぶ息が上がってるみたいだ。

それに、テンプルの聖騎士と違って、ヴァンパイアを守る操兵ってヤツは人型の敵を殺す戦いには慣れてない。人間を生け捕りにするのは得意なんだろうけど、頭や胴体を叩き潰すか、腕や足を切り落とさない限り動きを止められない“なりそこない”相手じゃ、かなり勝手が違うはず。

「心臓をたまごの中に隠した魔神の話、また聞きたいのかい?」
今はおとぎばなしを聞いてる場合じゃないよ、父さん。て、やばっ。頭に血が足りてないんだ。無関係な過去を勝手に幻視しはじめてる。

ヴァンパイアに捕まって血を吸われても最後まで抵抗できるように、とかなんとか言われて首絞められたとき、今みたいなクッキリした幻視を体験した。あの、バカ師範代…訓練なんてウソだ。ぜったい楽しんでた。
けど、暗い穴の向こうの光だとか、花畑が見えたわけじゃない。まだ、戦える。

一番近くまで迫ってた、上等な服着たなりそこないの喉笛を、下から赤スカーフごとスタッフでぶち抜く。上手いこと脳幹を灰にできたらしく動きが止まった。背後の壁を支えに立ち上がり、重力も利用して喉からスタッフを引き抜き、左手から寄ってきてたもう一体のコメカミを横殴りにする。骨が砕ける感触がして、側頭に焦げ跡つきのへこみが出来た元老人が倒れる。

体力、戻ってきてる?
それに、立ち上がっても今はめまいが起きない。回復術が中断してるのに、背中の傷が治っていく。左手薬指にはめた血色の指輪が温かい。これって術具を介した回復呪だ。力の源泉は…かなり近い。
「全部片付けた後、ワザとやられたフリして、呼び出すつもりだったのに」それで何しに来たんだとあざ笑ってやる計画だったのに「背中を刺された時、心がモレちゃったか」

オバさん、悔しがってるだろうな。
やっと吸血鬼の呪縛から解き放たれたのに、別の吸血鬼に噛まれて、それも忠誠の捧げ甲斐がない、ワタクシ事で公務をあっさり投げ出す無能な主となれば救われない。…分かってた事だけど。

父さんと同じ不幸に落ちてくオバさんの姿だけは、どうしても直視できなかった。噛まれるところ見たら、きっと助けたくなる。衝動的にホーリーシンボル仕掛けてしまいそうで、意味も無く庭に咲き乱れる花の種類を数えてた。

でも、あたしがどれだけ耐えてたか、アレフは気づいてない。ちょっとした想像力と感情を推し量れる知能があれば、怖くてあたしの肩なんか抱けないはず。あのニブさは男特有の…違う、きっと読心能力に頼りすぎて、その手の感覚が退化しちゃってるんだ。

「もう、いいか」
中庭に集まった“なりそこない”は倒れてるのも含めて200体ぐらい。一気に片をつけるって当初の作戦からすれば物足りない数だけど、傷と体力の回復がほぼ無制限なら、後は一体ずつ片付けていっても夜明けまでには全て終わる。

油断しないように、得物を持ってるヤツが居ないのを確認してから、半歩踏み出してスタッフを背中に構え、わずかに溜めを作ってから、迫ってきた“なりそこない”をなぎ払い、両手に素早く持ち替え回転させながら、死人の群れの中に一本の道を開く。時々体を回転させ、背後からせまる連中を威嚇しつつ、中庭の中央まで進んだ。

日のあるうちに用済みとなった10本のガラス瓶を土の中に等間隔に埋めておいた。水晶に比べれば質は落ちるけど術具としては十分。寄ってくる死人を牽制するためのスタッフの回転にあわせて呪文をつむぎ、呪力の流れを線に変えてガラス瓶を交点にして結び合わせ、中庭全体に広がる光の方陣を組みあげた。

頬に風を感じる。目を上げると、西の塔の屋根に、黒い人影が降り立つのが見えた。そこなら特等席だ。40年間眠り続けて、いまだに寝ぼけてる不死者の目を覚まさせるには、派手に光る見世物が一番。

ヒゲを震わせて、ドルクが危険だとか叫んでるけど、塔は効果範囲から外れてるし、余波ごときで滅びはしないはず。
それじゃ、回復してもらったお礼も込めて、全力でいってみよっか。

軽く息を吸い、まわしていたスタッフを方陣の中央に突き立てた。
「ホーリーシンボル!」

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