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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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この若者も、か…。
アレフは苦笑を抑える努力をとうに放棄していた。悲壮な決意をたたえた目で見返しているソバカスだらけの代理人候補には、好物を前にした人食いの笑みとでも受け取ってもらえれば幸いだ。

この若者の様に人脈や影響力を持っていない、そもそも村や町を治める才覚も気概もない、名ばかりの代理人候補は何人目だろう。いや何割というべきか。既に実権を後継者にゆずってしまっている老人。根拠の無い自尊心と現実との差に押しつぶされそうになっていた、口先ばかりの無能な男。

血を啜ってしもべにしたところで、彼らを通じて下した命令を、誰も聞きはしないだろう。そして、彼らから村や町の真実が報告されることもまず無い。この青年も故郷に戻ったとたん体よく軟禁され、太守が訪れた時にだけ引き出されて、代理人の役を演じさせられる。単なる血を提供者として。その為だけに人々に選ばれた人身御供なのだから。

血の絆で編み上げる心の網であまねく領土を包むはずが、素材がこれでは…
脆弱な網の目からは、何もかもこぼれ落ちていく。

やはり、直接足を運んで見出した代理人候補でなくては質が落ちるのは免れない。そもそも代表者を人に選ばせたのが間違いだ。
それでは人々に選ばれたことを権力の根拠にしていた、あのクインポートの町長と大差ない。いや、反抗する気概があるだけ奴の方がマシだ。

しもべとして能く治める者は、謀反の首魁となり得る者だ。反抗の芽を摘むのではなく、矯めて益となる果実を実らせるのも、血の絆を結ぶ大事な目的。とはいえ、今は…

たとえ表層的でも各地域の状況を知り、こちらの存在感を知らしめるだけでも十分。後で何度か村を訪れ、仮の代理人の寿命を削りながら、影に隠れた真の実力者に目星をつければいい。そいつを後継者として相応しいものだと指名させ、呼びつけて代理人として血の絆で縛っていけば、おそらく十数年後には領内全てを掌握できるはず。

だが…
果たしてそんな時間が、私に残されているのだろうか。

ファラ様が倒されて以来、次々と太守は滅ぼされてきた。つい先日、父も滅ぼされたというのに。

あと何年…いや、何ヶ月という未来しかないのかも知れない。遠からず訪れる死の運命に怯えている腕の中の若者より、私が長生きできる保障などどこにも無い。

そう考えれば、名ばかりの代理人候補は、村や町の顔役たちにとって丁度いい時間稼ぎだ。この若者の命を啜り尽くすまでに、他の太守達のように私も多分…

突然生じた背中を熱く貫く衝撃で、悲観的な思考が中断する。
一瞬、眼前の若者がナイフでも隠し持っていたかと疑ったが、抱きすくめられた状態の者が刺せる位置ではない。強烈すぎる心話、いやこれは耳を塞ぎようのない苦痛の叫び。

「ティア…?」
意識を向けたとたん、背中から溢れる血が法服を重く湿らせる感触と、頬に触れる土を感じた。かろうじて上げた彼女の視線の先には、ぎこちない動きで剣を振るう異形の者。まとっている衣装は衛士の物だが、肌は青黒く変色し腐臭もひどい。
これが“なりそこない”か。そして、無数の敵にたった一人で対抗しているワーウルフはドルク。

(ドジっちゃった)
自嘲的な心話の合い間にも回復呪は唱えているようだが、治癒が追いついていない。そして、新しい刀傷がわき腹に増えるのを感じた。

「…すまない。夜明けまでには戻る」
噛まれる直前に抱擁が解かれたことに戸惑う若者の横をすり抜け、控えの間で棒立ちになって見送るウィルに軽く視線を向けた後は、素早く階段を駆け下り、立ちすくむ代理人候補たちの間を走りぬけて、中庭に出た。

(何のために隠し通路をお教えしたと…)
イヴリンのボヤきに苦笑しつつ、宵闇の中を、人通りの多い道を全速力で駆ける。背後で広がる動揺とざわめきは感じるが、足を止める気になれない。ひたすら気ばかりが焦る。だが、このまま走っていては時間がかかりすぎる。
バフル港を見守っていた風の精霊…父がつけた名は確か
「プシケ!」

風の後押しを貰い、手近な建物の庇を足がかりに屋根の上まで跳ぶ。
「我が身を城へ運べ!」
力の限り空に向かって跳躍し、吹き上げる風に身を任せた。

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