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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
性別:
女性
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バフル西側の新しい建物群が、宝石ごってり化粧こってりドレスだけはやたら薄い都の女なら、北東の丘にそびえる四角い城館は、地味で丈夫な普段着をまとった田舎の女。土くさいけど、大きくてふところが深くてガンコ者。そんな女を落とすなら、正攻法より意表を突いた方がうまくいく…なーんてね。

ティアはスタッフにロープを結ぶと2階のバルコニーに向かって放り投げた。うまく引っ掛ったのは4度目。法服のすそを腰紐に挟んで登ったあと、ロープを手すりに結びなおして、10本のビンを引っ張り上げる。登ってきたドルクと一緒に、扉に打ち付けられた板をひっぺがして城内に入った。

真昼なのに中は薄暗いし、腐臭というか死臭がひどくて口で息してても吐きそうだ。天井を支える石組みのアーチはキレイだけど、床と壁は赤黒いシミが目立つ。廊下の隅には灰も少し積もってる。戦いの痕跡というより、閉じ込められたなりそこない同士が共食いしたアトかな。

突き当たりは中庭。たぶん丘の頂上だ。前の太守が健在だった頃は、ここで新酒のお披露めかねた園遊会とかやってたらしいけど、今は単なる土の空き地。片隅の布の固まりは、光が怖いって本能すらなくして、陽に焼かれて灰になった“なりそこない”の遺品かも知れない。

「どこから手をつけたものやら」
「窓が少ない一階の、陽が当たらない南側で眠ってると思う。地下は結界あるよね」
真っ暗な階段を下りる前に、ランタンに火を灯す。でも、火は絞って油は節約。もしもの時、火と油は武器になる。といっても城館が焼け落ちたら元も子も無いから、街に被害が及びそうになったとき限定の最終手段だけど。

南側の倉庫で1体目を見つけた。入り口近くの床で丸くなってた黒と黄色のタテジマ男。ヒザを抱えた青黒い手には爪も無く臭いもひどい。
ドルクから緑のビンを受け取ってコルクを抜く。ビンを眉間の前に構えて、もう一度、水に力を込めた。
「完全浄化にどれくらいの量が必要かわかんない。少しずつ注ぐから。その…暴れだしたらよろしく」
「いくら生前の意識が失われているとはいえ、気が進みませんな」
それでも剣を抜くドルクに心の中で感謝しながら、聖水をなりそこないのヒザに垂らした。

煙とともに曲げられた足がクタっとへこんで床に白い灰が広がる。同時になりそこないが意外な素早さで仰向きになり、ヒジから先が灰化した左手を支点に身を起こした。原型をとどめている右手に掴まれそうになった瞬間、肩口にドルクの剣が突き立って、なりそこないを床に縫いとめる。
あがく頭部と胸に聖水を振り掛けると、ナベから上がる湯気みたいな勢いで大量の煙があがり、金属の板を縫い付けた布鎧だけが灰が散った床の上に残った。

「だいたい2割か…手持ちの聖水だと50体がせいぜいね」
コルクをねじ込んだビンを、ランタンの光にかざして確認する。痛みを感じて開くと手のひらが焦げてた。なりそこないが起き上がった時、うっかりぬれたコルクを握り締めたみたいだ。ビンから垂れた雫は、注意して袖でぬぐう。

「元はあたしの力なのに、自分も焼いちゃうなんて、なんか納得できない」
体内にあるときは無害なのに、出したとたん毒になって肌をただれさせるだなんて
「まるでウン…」この例えはさすがにマズいか。

2体目はカラっぽの樽の中で眠っていた。見つかりにくい場所を選ぶって事は、少しは思考力とか記憶とか残ってたのかも知れない。まばらな髪の毛を申し訳程度に包む白布に向かって聖水をかけ、彼女を一塊の灰とくしゃくしゃのドレスに変える。今度は苦しまなかったはず。なりそこないに痛覚が残っているのかは疑問だけど。

「やっと2人目…で、聖水が尽きたあとは」
渋い顔しているドルクにスタッフを上げて見せた。
「これが白木の杭の代わり。死体でも胸板をスタッフで突き破るのは体力使うし、いい感触とは言えないけど」
「そして私が剣で首を、ですか…衛士にはキツい仕事ですな」
死斑におおわれて腐りかけてるなりそこないでも、やっぱ主に重ねちゃうのかな。

「昼間のうちに見つけられる限りのなりそこないを片付けたいけど、全部がこんな風に楽に終わるなんて最初から思ってない。本番は夜になって動き出してから。
中庭にワナ張ってエサでおびき寄せて、一気に片をつけるつもり」
地面に血の一滴でも垂らせば簡単におびき寄せられるはず。
「で、その餌は私達ですか?」
察しのいいヒゲおやじに笑ってうなづいたら、深い深いため息をつかれてしまった。

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