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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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ビンの中の水にティアは意識を集中させようとしたが、背後からせまる代理教官の重い足音に邪魔された。ため息をついて振り向くと、イモムシっぽい指が出口を指していた。
「すぐ出て行ってください。教会にいると危険です」

ほつれた袖口から糸がたれてる。代理教官の日当って少ないんだっけ。教え子への愛情だか学問への情熱だかに突き動かされて、なりふり構わずがんばる姿には頭が下がるけど、そでの糸は…ネコじゃなくても気になる。単に個性的な体格に合う古着が、なかなか見つからないだけかも知れないけど。

「聞こえてるんですか?」
「危険って、つぎはぎ…じゃなくて、継ぎ足しの屋根がそろそろヤバいとか?」
見上げれば、いつ壊れるか賭けをしたくなる天井が、薄暗がりに広がっている。
「あなた方、バフルの人じゃないでしょう」
今、ちらっと田舎モノをバカにする顔したな。あたしが生まれ育ったクインポート、負けてないと思うんだけどな。少なくとも教会の立派さじゃ勝ってるし。

「ここはまだ“夜が明けてない街”なんです。元々おおっぴらに人が学問するのもはばかられてたのに、モル司祭が城に詰めてた人たちを化け物に変えて、そのうえ太守を滅ぼして…おかげで、私やここで学んでいた子供達までもが、怪しげな術を使う人殺しの仲間だと、白い目で見られてるんです。いま波風を立てたらどうなるか」

「そんなの、攻撃呪は教えてませんって、ちゃんと言えばいいのに」
東大陸じゃ、攻撃呪は絶対に教えてくれない。あたしが通ってたクインポートの教会でも、攻撃呪どころか回復呪さえロクに教えてくれなくて、だからあたしは家出して海を渡ってホーリーテンプルまで行かなきゃならなかった。

「口でいくら説明しても、法服を着た聖女が祭壇でそんなことしてたら、教会は二度と再開できなくなります」
「そんな事って…?」
「ワインに祝福を与えているようには、どうしても見えないんですが…聖水ですよね?」
確かにこれは、言い訳のしようがないかも。

「これは城の“なりそこない”を浄化する為に作ってるだけで、アレフにぶっかけようなんて少しも思ってないんだけどなぁ。ダメ、かな?」
なるべく無邪気な顔で小首を傾げて見せたけど、代理教官の顔はゆるまない。
「誰が信じるっていうんです。早く、法服を脱いでここを立ち去ってください。あなた自身と、我々のためにも」

「信じてくださいますよ、アレフ様なら」
あ、ドルクのこと忘れてた。
「アレフ…ああ、顔が良いってだけでファラが始祖にした、太守の息子ですか」
実もフタもない言い方だな。間違っちゃいないけど、その顔がいいだけのボンボンの為に、苦労してホーリーシンボル覚えた身としては、ちょっとムカつく。
「ずっと眠っているものとばかり。いつからバフルに」
「今朝方」

「夜は明けないままか」
「そうでもありませんよ。今は施療院になっている代理人事務所のはすかいにある赤レンガの建物…あれは元々、バフルの教会としてアレフ様が寄進なさったもの。教会の活動には理解のある方でしたから、そう悲観なさることもないかと」
知らなかった。っていうか、本物の物好きだ。自分達を滅ぼそうとしてる相手に、タダでりっぱな建物をくれてやるなんて。

「それに、この聖女見習いが法服を脱がないのは、代理人イヴリン・バーズとの誓約だからです。この姿でモルの邪法の犠牲になった城の者たちを安らかな眠りにつかせる…テンプルの、いえ教会の者として償いをするというのが、この教会を再開させる条件です」
そうだった。オバさんから書付とかもらってないし、口約束だけど。

「本当に…再開できるのか」
「この見習いさん次第ですけどね。だから、もうしばらくここで準備を整えさせてやってくれませんか。それに、こう見えましてもわたくしはアレフ様の名代、この件に関する見届け人を仰せつかっている者ですから、ご心配には及びません」
代理教官の額に汗が浮いてきた。やっと喉の赤布に気づいたのか。薄暗いとヒゲと一体化しちゃうんだよね、赤い色って。

「ちなみに、この娘はアレフ様の想い人ですので、ちょっかいなど出されませぬように」
「誰がよっ!」
「冗談です」
胸倉つかんだ手を軽く払われた。憎たらしいのに憎めない。このヒゲおやじ、ぜったい食わせ者だ。

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