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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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女性
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オレをまっすぐ見つめてる。気味悪がってない。やはりティアは、真心が伝わる娘《こ》だった。
あの人の言うとおりだ。信じてよかった。

なのに、どうして気付かない。
幻想の愛。偽りの誓い。奪われるのは生血。与えられるのは永遠の束縛。
幸せを包むはずの花嫁衣裳が死のワナだと、どうして…

「ゴツくなったけど、テオだよね。何で?」
「何でって」
「あたし達、始まる前に終わってるよね?」
オレ…またフラれた?

「ちょっと言葉が遠まわしすぎたかな。だからマジな色恋ザタって苦手」
いや、ティアはヴァンパイアの魔力に捕らわれているから、だから。

「誤解させてごめんなさい」
ティアが人差し指で、背後のアレフを指す。
「“コレ”は断るための口実で」
次にオレを…いや、オレの後ろを指差した。
「“ソレ”を、あたしのオヤジと同じ目にあわせてやるのが“まだやること”」
振り向くと、ソレ呼ばわりされたモル司祭が笑みを浮かべていた。

「誤解を解くのは大事でございますが、傷ついた青年の心に、塩をすり込まずとも」
ティアの袖を引いてる禍々しい黒ヨロイ。声に聞き覚えがある。弓は持ってないけど、森に選ばれし戦士。一緒に戦ったダーモッド?

ティアがうるさそうに、ダーモッドを振り払う。
「それに、あたしは人を殺した手で赤ん坊のおしめを替えるつもりはない。わかった?」
オレは一方的な思い込みで、海を渡り、体まで変えて。

いや、ティアが振り向いてくれないのは、少しだけ、覚悟してた。
魂を自由にする。
呪われた運命を断ち切って、ティアを開放するためにオレは来たんだ。

真っ白なティアの後ろに、佇んでる黒い影に向かって、一歩踏み出そうとした時。
「危ないですよ」
眼前にくるりとスタッフが下りてきた。真横にモル司祭の顔があった。月光を含んだ髪が、ほぐした亜麻のようだった。

「おかえりなさい」
嬉しそうな声。今にも笑い出しそうな尖った横顔。
「司教長の血は…美味でしたか?」
アレフの口元が歪んだ。もしかして味を思い出して笑ってんのか。

敵が来たと叩き起こされて、この広間に駆けつけた時、言われた。ホーリーテンプルが全滅したかもしれないと。信じられなかった。でも…

アレフが右腕を軽くふる。森の城で失った鋼の手甲の代わりに、不吉な黒い手甲がはまっていた。ティアが真顔になる。半回転したスタッフが正面で静止する。2人とも、言い訳しない。モル司祭が言ったことを否定しない。

世界に夜明けをもたらした白亜の聖地は、血に染まって闇に落ちた。アレフを倒せるのは、もうオレ達だけなんだ。背負った剣の柄を握りしめた。

「教則本に従うなら、敵はすべて排除したと、安心して棺に横たわっている胸に杭打って断首ですが…玄関のワーウルフ。私はイヌが嫌いでね。うっかり殺してしまいました」
後ろめたい痛みがよぎる。うつむきかけて…硬い音に顔を上げた。ダーモッドが黒い剣を抜いていた。

応じて、オーエン達も剣を抜く。オレも背中の剣を抜いて、両手で構えた。
「これじゃあ私の訪問がバレてしまう。だから覚悟を決めてここで待っていたんですよ」
ヒビが入った薄い板を渡るような緊張。でも、頭が澄み渡る。心が静まる。互いの位置がはっきり分かる。
「じゃあ、始めましょうか。ヴァンパイア退治を」

「父さんの仇っ!」
ヴェールを後ろに引いてティアが突っ込んでくる。ドルクとオーエンの剣がぶち当たる音が響いた。支援に向かおうとしたルシウスの前に炎が舞う。室内を暴風が駆けて壁際のキメラたちの邪魔をした。

視界が明るい。森の城でもこんな感じだった。一瞬、自分どこにいるのか混乱した。敵味方の位置を確認して、アレフに詰め寄られているのに気付いて慌てた。

黒と銀の影から繰り出される拳。4本の刃が、目の前に迫る。とっさに剣で受けた。姿勢が崩れ、剣が弾かれる。柄から右手が離れる。でも筋肉でふくれあがった左手が剣を掴みなおす。力を増した足が踏みとどまってくれた。

開いた右肩を掴まれ、脇腹を蹴られた。肩を砕かれそうな痛み。たわむ肋骨。初めてアレフが人間じゃないと確信できた。
でも、肩は動く。息は吸える。まだ剣は振れる。背を丸めて転がって起きた。敵は…すこし離れた位置。オレは太ももに力を溜め、一歩で切り込んだ。

うまく意表をつけた。アレフの反応が鈍い。
胴を両断するつもりで、ないだ。硬くて弾力のある奇妙な手ごたえ。斬れない。骨を砕けない。
でも細い身体は、ふっ飛んで壁にぶつかる。力は強くても体重は見かけどおり。むしろ軽い。

追い討ちをかけようとして、立ち止まった。虹のキラメキ。袖に仕込まれたティアの小刀。軌跡はわかっていた。リネンの袖で絡めるように叩き落とし、振り返った。もう、ティアはこっちを見てない。ホーリーシンボルを使わせないよう、炎を伴って、モルとスタッフをぶつけあってる。

この連携がオレたちの強みだった。互いが盾となり、デタラメみたいな牽制が、離れた敵の態勢を崩す。視線を戻すと、アレフは消えうせていた。どこへ…見上げたが頭上にはいない。

求める心が、部屋の入り口に視線を引きつける。たしか、モル司祭が聖水を仕掛けた場所。青白い魔方陣。浮いているのは無数の氷。まずい。

風に乗って飛んで来る白い粒を、跳んで避けた。後ろで上がる悲鳴。モル司祭が顔をおおう。不意を突かれた拳士ルシウスがティアに殴り倒される。銀のヨロイを紅く染めてヒザをつく聖騎士。その向こうで、黒い獣めいた騎士が剣を振り血を払う。

なぜ避けない。来るのが分かって…
もしかして、分かっていたのは、オレだけ?

「その通りです」
真後ろで声がした。振り向こうとした足を払われた。仰向けに倒れた。
アゴを掴む冷たい手と、肩を押さえこむヒザのせいで、動けない。アレフが右ひじを引いていた。オレの首を、命を、引き裂こうとしている4つの刃。

殺られるのか。
でも白い顔は、怯んでいるような、迷っているような?

足を高く上げ、反動で強引に起き上がる。首と肩の痛みを無視して、アレフの体をはねあげた。
アレフが体勢を立て直す前にないだ。あの妙な感触はマントだけ。細長い左腕には刃が食い込み、血がしぶく。

アレフは左腕を押さえて間合いを取ろうとしてる。呪の詠唱。森の城でいく度かオレも世話になった回復呪。治される前に。
「トドメを刺す」
狙うなら心臓か頭。壁際に退いた黒い姿めがけて、剣を構え、体ごとぶつかった。

勝利を確信した瞬間、横から何かがぶつかり視界が暗くなった。体が横に流れる。剣が壁に突き刺さる感触。外した。気が遠くなる。

…床の敷石が滑らかで冷たい。オレ、まだ生きてる?

「汚いわよ!アレフがテオを傷つけられないの知ってて、連れてきたのね」
真上から声が降ってきた。目を開けると、白かった。これはティアの白いブーツとスカート?

「おやおや、テオは貴女を助けに来た騎士ですよ。手加減ナシに頭を殴るなんて…むごい聖女様だ」
「平気よ。イモータルリングをしてるから。アレフが滅びない限り、テオは死なない。どんな傷をおっても」

剣戟の音はしない。銀の聖騎士と黒い獣騎士の決着はついたのか。オーエンは…生きてる。でも手首に小刀。足の骨を折られて呻いている。もう一人は、失血で意識がない。

仲間が傷ついて、死にかけてるのに、どうしてモル司祭は笑っていられるんだ。まだキメラが居る。だけど、あいつらは言うことを聞かない。

「痛みはあるだろうに」
「死ぬよりはマシよ」

沈黙。
嫌な感じがした。オレの一部が…力を求めて獣や竜の力を合成した腕や足が、震えてる。

「死んだこともないくせに」
低い声。したたる憎しみ。
「死なないお前等は化物だ。人の手におえる相手じゃない」
モル司祭の声なのか。いつもの余裕も、若さも感じられない。

「人は儚くて弱い。我慢してファラに頭を下げてやったのに。私には資格が無いと言ったのですよ。あの女!」
こんな声、聞いた事がない。反乱を起こした水夫が、操舵室に立てこもった時も、そいつを縛り首にしたときも、モル司祭はいつも落ち着いて、穏やかに哀しげに微笑んでいたハズ。

「でも、もういいんです。私は作り上げました。人の力を源とする不安定で弱点だらけの不死身なんかとは比べ物にならない…真の強さ」
身体が、行きたがっている。惹きつけられる。

「こっちに戻っておいで、テオ。私の…生者の明日を守る盾となるために」
「行っちゃダメよ」
「テオをだまして盾にした魔物。可愛がってくれた伯母さんを襲った吸血鬼。アレフを倒すためにキメラとなったはずでしょう?」

立ち上がり1歩踏み出した鼻先に、ななめ下からスタッフが突き出された。
「逆でしょ。アレフがテオの盾やってくれてたンじゃない。伯母さんに頼まれて…っていうか、縛られて。血の絆って言うより、血の呪いよね」
アースラ伯母さんが、頼んだ。何の話だ。

「テオ、教えたはずです。もう身体は元に戻せない。その身は私の元でしか生かせないと」
そうだ。力と引き換えに、人としての身体と未来をモル司祭に差し出したんだ。オレにはもう、当たり前の人生はない。数年の余命だって言われた。

ヘタり込みそうになった時。後ろから冷たい手に捕らわれた。
「テオはしもべ。とおに私のものです。先に約束したのは私」指が熱い…左手の血色の指輪から熱が広がる「シリルの村長に無傷で連れ戻すと」

風邪を引いたときみたいに、皮膚が、ウロコが泡立つ。骨と関節がきしむ。肉が痛む。ブカブカの袖から血と膿が滴る。足が腕が、崩れ剥がれ、しめった音を立てて足元にたまる。なぜか痛みがない。それが一番無気味だった。

「再生力を上げるだけの指輪かと思ったら、過去の肉体を記録しておいて、再構成する術具でしたか」
病み上がりの様な倦怠感。床にたまった赤い水たまり。オレの一部だった生臭い泥の中に、ヒザをつき、倒れた。

鉄さびの様な笑い声が、耳をこする。
「まあ、いいでしょう。テオを取り込み盾とするのは余興。あなた方の困った顔を見たかっただけの事」
風で縫いとめられていた、異形の怪物たちの悲鳴が上がった。
「私が理想とする力と美には、少し余分でしからね」

何かが生まれようとしている。
血の匂いがする生暖かなぬかるみから顔を上げた。窓際に、赤い光を抱いた歪な影。モル司祭だったモノが、新たな形を得ようと蠢いていた。

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