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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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女性
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アレフは冷たいカギを握り締めて階段を下りた。
一番手前の鉄格子の前に立って、中を見る。30過ぎの筋肉質の男がこちらを見て後じさる。いまひとつ目の焦点が合っていない。人にはここは暗すぎるのだろう。その太い首筋を脈打たせる頸動脈の在処を見取って、カギを鉄格子の錠に差し込む。金属的な音がして止め金が外れた。男が息を飲む。その時に小さな悲鳴のような声を上げた。可哀想なほど怯えている。

扉を開き中に入ると同時に、男の目を見つめて術にかけ怯えを取り除こうとした。意図を察したのか男が急に目を閉じた。近づく者を阻止しようとするかのように顔の前に手を伸ばす。

「私の目を見なさい」
優しく言うつもりだったが渇きがひどいせいで、しわがれて早口になってしまう。男はますます強く目を閉じて壁ぎわまで後退り、背中に壁が当たった時、絶望的に叫んだ。
「お、俺より、隣の女のほうが旨そうだと…」
術にかかるまいと、あまりにかたくなな男の態度に業を煮やして、突き出された男の手首を掴むと、力任せに左右に開いて壁に押しつけた。
「うわあっ」
悲鳴を上げた男の顔が苦痛に歪む。渇きのあまり手加減するのを忘れたが、幸い骨は砕いてない。

固く目を閉じたままの顔が間近に見える。だが視線はどうしても脈打つ首筋に落ちる。そう意識したときにはすでに唇を喉に押し当てていた。
男が全身の力を振り絞って壁に縫い付けられた両手を動かそうとしている。足で蹴ろうともしているようだが体が近すぎて単なる足掻きにしかなっていない。

この男に術をかけるのは絶対に無理だと感じた。男を放して他の者を試すという考えが浮かぶ。同時に、薄い皮膚と肉を通して感じられる温かい血潮がより強く脈打ち誘う。

もういい。十分に機会は与えた。
安らかな夢見心地の提供ではなく、苦痛と恐怖をこの男が選んだ。
そんな考えが浮かび、正しいような気がした。

口を開き脈打つ皮膚に牙を突き立てる。男の全身が強ばった。皮膚と肉を貫くと、熱い血が口中に広がった。男の体からゆっくり力が抜けていく。血とともに男の気力までが流れ込んでくる。

接触すれば目を見なくても術はかけられる。遅ればせながら男に安らぎと快感を与えた。苦痛や脱力感を感じているだろうが男の意識には快楽と受け止めさせる。男が全身の力を抜いた。手首を放し肩を掴んで、もっと飲みやすい角度に抱きなおす。温もりが喉を滑り落ちていく度に、痛みと飢えが少しずつ慰められてゆく。

もっと…と思ったところで頭の隅に警告を感じた。
飲みすぎている。
目を閉じ未練を断ち切るように口を離す。まだ男の体には血が残っているが、これ以上は命にかかわる。印を結んで付けてしまった二ヶ所の傷に軽い治癒呪をかけ、ぐったりとした体を床に横たえる。

まだ足りないと、40年ぶりの食事をした体が訴える。今は飢えと空腹の中間ぐらいか。
普段の代理人相手の食事なら気を失う程吸ったりはしない。ほんの1口か2口ほど。それでも満足できたはずだった。しかし今、飲み尽くして殺してしまっても構わないという不穏当な考えが、意識の無い男を見下ろしながら浮かんできた。

元々彼らは、私を滅ぼしに来たのだ。返り討ちに遭うことぐらい覚悟の上だろう。死んだとしても自業自得だ。
首を振ってその考えを追い払う。
「まだ2人残っている…」
隣の牢からすすり泣く声が聞こえていた。

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