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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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数十年使っていない骨と筋肉が悲鳴を上げている。右手の指の付け根にはなじめない金属の違和感。さっき手渡されつけるようにと忠告されたささやかな武器だ。こぶし一つ満足に握れないことは自覚していたが、やはり抵抗がある。握りが安定するのは分かるがこれは生き物を殺傷するための道具だ。

今の立場を選んだ動機は資格があったという以外に、無限の時間という誘惑や、そうなるべきだという父親の思いの強さもあった。
しかし“生き物を殺さなくても生きられる”という事も決意をうながした一因だ。

それがまやかしに過ぎず、“食事”を提供した者が、たとえその時は死ななくとも、短命となる事は知っていた。だが食べる為に殺すよりは、幾分マシなような気がしたのだ。相手も納得尽くならたいして罪悪感は覚えない。見返りは十分に与えていた。
でも、これからすることは…

手の中のカギが冷たい。
どうすればいいのかは知っていた。同意していない人間の血を啜るは初めてだが、相手が怯えないように魅了してしまえば後は普段の食事と変わりは無い。差し出されたノドに牙を突き刺せば済む。同意の上での食事でも最初のときは術をかける。それと同じだ。
しかし…

「アレフ様が御手に捕らえずとも、数十年後にはうたかたの様に消えていく者たちです」
ドルクが優しく微笑んで言った言葉だ。人と獣が入り混じった顔が、意外と微妙な表情を作ることに今更ながら気づかされた。

誰かから殺意を向けられているというのも衝撃的だった。
潜在的な敵意なら昔から感じていた。人々の目の中に怯えと共にある感情。
それに父が滅ぼされたという事実はあまりに大き過ぎて実感できない。

眠っている間に何かが大きく変わってしまった。まずはそれを確かめなくてはならない。その為にはルナリングがいる。日の光を浴びたからといって即死はしないだろうが、無事ではすまない。実際試したいとも思わない。

「ご自分で取りにいらしてください。
この城内すら歩けないようでは外にお出しできません」
きっぱりとした口調はドルクがまだ守役だった頃、幼い反論を封じた穏やかな厳しさを思い出させた。

人であればまだ生きていただろうネリィが、自分のせいで滅びてしまった現実に、まだ立ち向かう自信はない。ただ胸を引き裂くような悲しみは長い眠りが癒してくれたようだ。

40年の眠りは同時に体の衰えをもたらした。
今までにないほどの渇き。足元が沈みこんでいく疲労感。気を抜くと指先の感覚が鈍る。これは姿を保てなくなる限界、灰化の予兆か。飢えという言葉は知っていたが体験するのは初めてだ。存在そのものを脅かすほどの消耗…

すぐに食事を摂らなくてはと思うが、まだ、ためらいがある。
村までもたないのは分かっている。
彼らで済ませるしかない。

階段の踊り場に足を踏み入れたとき、話し声が止んだ。最後に聞こえたのは女の声だ。階段を下りた先に地下牢がある。閉じ込められている者たちの緊張した浅い息遣いが聞こえる。さらに耳を澄ませば彼らの心臓の鼓動まで聞こえてきた。その拍動に合わせ奔流となって動脈を流れる血潮を思い浮かべたとき、自然に足を踏み出していた。

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