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「しまった!」
ドルクの手は届かなかった。
従者として長いあいだ仕えてきたドルクだが、主が目を止めた人間を館まで連れていくのは、今でも気が重い仕事だ。
うら若い娘やはつらつとした若者に、御領主がご所望になっていらっしゃる、今夜あなたの未来は閉ざされると宣告し、驚き嘆く家族たちが仕方ないと肩を落とすまで見守ってから、法で定められた範囲内で血の対価を……希望をかなえる手配をする。
生まれ育った家から引き離し、館で湯を使わせ、髪を整え、肩まで大きく開いた麻布の服に着替えさせる間も、愚かな考えを起こさぬよう、じっとにらみを利かせ続ける。
夭折の哀しい知らせを携えて訪問するのは同じでも、船舶の遭難や鉱山事故の訃報を告げにいく方が、まだマシかも知れない。既に終わった運命と、間もなく訪れる避けられぬ運命では、嘆きと痛みに付き合う長さが違う。
今夜お召しを受けた娘と家族に約束した金袋の手配は終わった。
残る厄介事は用が済んだ娘を家に送り届けることのみ。一息つき、村を治める代理人のすすめで牛乳酒を飲んでいる時に、起きてはならない事が起きた。
完全に虚を突かれた。
若者がいつ館に入り込んだのかも解らなかった。
不穏な気配に振り向くと、素早く階段を上がって行く背中が見えた。手にナタを握っている。酒杯をほうりだし、ドルクと代理人はすぐに追ったが、一歩遅く、青年は奥の扉に体当たりしていた。
「カリーナ!」