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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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右手がしびれる。ナイフに貫かれたのは二の腕の神経束。肩口に振り下ろされる剣を、アレフは身を斜にして避けた。腕の傷がこじられる痛みに呻きながら、体に絡む網を踏んでいる騎士のスネを蹴った。よろける騎士から、かろうじて取った間合い。ベルトの物入れから水晶玉を掴み出して掲げた。
 
強い光を予想して閉じられる目。騎士が警告を発し跳び離れる。絡む網をかなぐり捨てながら冷気の呪を唱えた。方陣を敷いたのは風上の少し離れた地点。この辺りは湿度が高い。白く輝く霧のドームが生じた。

拍子抜けしたように半円の霧を見上げる騎士。そのスキに、知覚を周囲に広げる。

ドルクは獣人化して、拳士とスタッフをふるう司祭に対抗している。ティアは砕けた馬車の向こうで聖女とやりあっている。得物は馬車の下敷きだが、刀子でしのいでいるようだ。

2頭の馬が折り重なるように倒れ、その上に馬車が乗り上げていた。折れた足に絡んでいるのは両端に金属の球がついた縄。
日の出と同時の襲撃。近くに、鼻息の荒い馬が4頭。少し前から、彼らは馬車に併走していたのか。幻術をまとい姿とヒズメの音を消し……見事な手並みだ。

「灰に返れ!」
吼えながら走る騎士に、マントを脱いで投げつける。死角から手首を掴んでひねろうとしたが、ヨロイにはばまれた。逆に振り飛ばされる。着地し、のけぞった頬を剣がかすった。

跳び離れた時、風に流されてきた霧があたりを包んだ。日がかげり、全てがぼんやりと灰色ににじむ。

闇雲に振られる剣を避けながら、左薬指にはまったルナリングを歯で引き抜いた。水晶玉と共に物入れに放り込み、右手用の手甲を左手にはめる。てのひら側となる刃は攻撃には使えない。だが、盾代わりなら十分。

「ケアー!」
水晶球を通じた言霊で、亜空間上にシーナンが組み上げた頭脳を模したオートマタに接触する。
「心を開いてください」
ティアの心の障壁が消え、見ている光景が表層意識と共に心に流れ込む。ドルクからの光景もケアーに送り、敵味方の正確な位置を割り出させ、それぞれの意識に返す。

技量に頭数。死線を潜り抜けた者同士が持ち得るという息の合った連携。全てにおいて敵わないのは分かっている。どこまで術で補えるか…だが、互いに助け合わねば勝機はない。

最も不利なのはドルク。身軽な拳士が相手では重い斧は当たらない。空振りしたスキに思わぬ位置から司祭が操るスタッフが突き出される。既にアバラ1本と右ヒザをやられている。立っていられるのは獣人の強靭さゆえ。

なら、まず司祭を何とかする。
酸素をまとわりつかせた小火球を投げつけた。法服は少し灼熱したが穴は開かない。だが、火傷を押えた時、ティアの刀子が横腹に刺さった。回復のために離脱しうずくまる影に、ささやかな勝利を味わう。

直後に脇に衝撃を覚えた。いつの間にか背後に迫っていた騎士の剣が、腹に食い込んでいた。生身なら胴を両断されかねない勢いで吹っ飛ばされる。あばら骨を幾本かやられ、傷が肺に達したのか血にむせた。

「ったく、手間がかかる」
ティアの唇が回復呪を紡ぐ。指輪によって結ばれた絆から流れ込む癒しの力。

「お嬢ちゃんを黙らせる!治されちゃキリがねぇっ」
霧を巻いてティアに向かって走る拳士。その背中に火球を飛ばしたが、避けられた。火球を操りたくても、眼前の騎士が振り下ろす剣と、思わぬ位置から突き出されるナイフから目そらせない。

(ドルク、頼む)
だが獣人の前にスタッフを構えた司祭が立ちはだかる。もう回復したのか。

2人を相手にしていたティアの意識が、不意に途切れた。気絶した細い体が縛り上げられるのを感じながら、助けに行けないもどかしさに呻いた。

「聖女見習いは保護したわ」
保護…ならばティアは捕らわれても殺されない。

安堵は、目の前に現れた黒い拳士が浮かべる不敵な笑みを見たとき、消えうせた。

思わぬ方向から飛んで来る蹴り技と拳。これはティアもやっていた技。だが、はるかに重い。物理障壁をめぐらせていても、全身に痛みが溜まっていく。横合いから突き出される刃も痛みと出血を強いる。

(すみません…アレフ様)
司祭と聖女の杖術によって、腹と喉を突かれたドルクが倒れるのを感じた。治癒は始まっているが、しばらくは立ち上がれそうにない。

エクアタの時のように一時退く事を考えた。だが、ここは平原。すでに3人に囲まれ退路を断たれていた。それに、今度はドルクの遺体を、焼かれてしまうかもしれない。

突かれ、斬られ殴られる。呪なしの術を使う余裕もない。全ての魔力を回復に向けても追いつかない。

突然、足元に白い輝きが広がった。
数歩離れた位置で、印を結び呪を唱える司祭が目に入る。
 
地面に描き出された法陣。これは破邪の呪。目の前にせまる完全な消滅に震えた。
全てが終わるのか。
血の絆を介してつながった者たちの顔が心をよぎる。親しい顔に、ジガットの炎と血の海が重なった。

「こんなところで、滅びてたまるかっ」
背後から刺されるのも構わず、目の前に突き出されたスタッフを脇に押さえ込んで下がり、よろめいた聖女を殴り飛ばす。
同時にうめき声と血を吐いて、背後の騎士が倒れた。背中にドルクの斧が生えていた。間に合わせの修復で強度が足りなくなった部分に、奇跡のように太い刃が深くめり込んでいた。
 
退路が出来た。だが
「よくもっ」
横合いから拳士が繰り出した蹴りで、法陣の真ん中にたたき伏せられた。

ホーリーシンボルの効果範囲から離れなければならないのに、手足が思うように動かない。肉と筋を斬られ骨を割られ、血も流れすぎた。痛みと脱力感が全身を包む。

最後に残った力で斧を投げたドルクはそのまま倒れ、伸ばした手が草を掴んでいた。

司祭の術式が完成する。
霧の中で清浄な光が眩しさを増し、地面と霧を真っ白に染め上げる。

不意に何かが割れ砕ける音がして、呪は途切れた。大地に広がっていた法陣が跡形もなく消え失せる。

司祭はゆるりと後ろを振り返り、たおれた。

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