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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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血に染まった綱を解き、ヨダレが染みた猿ぐつわを外す。ロウソクに映える髪をアニーが手ぐしで整える。露になった小さな顔を、ルーシャは悔恨と共に見つめた。

「久しぶりですね」
「ごめん、なさい」
くぐもった力の無い声。

「顔見知りだから油断した。でなきゃ眼をツブされたりしない」
「駆け落ちした男を処刑台送りにしたお嬢ちゃんだよねぇ。見た目にダマされて気を抜く方がどうかしてんのよ」
ハジムの言い訳を、アニーが叩き潰す。

最初に会ったのは賊が巣食っていた城跡の丘。目的は副司教長の愛弟子救出。あの時、娘は助けを必要としている風には見えなかった。横に馬車もあった。だから自力で戻れると判断して別れた。

ちゃんと保護していれば、ここまで遠回りせずに済んだ。それが悔やまれる。

賊を商会の自警組織に引き渡し、教長に報告した折、肝心の娘が戻っていないとなじられた。行方を捜すために、駅や港で足取りを追った。そして黒衣の若者と、吸血鬼のウワサを結びつけた時には…3駅分、半日の距離が開いてしまっていた。

「賊が1人、消えています。殺しましたか」
「よこせって言われた。凄く飢えてて、引き渡すしかなかっ…オジサンが死んだかどうかは、分かんない」
低くかすれた声。ウソを言っている様には聞こえない。

追いつきかけたチェバで完全に足取りを見失い、再び見出したのは、ここよりはるか南。ドライリバー東岸の宿場町。
「馬丁の子をどうやって解呪したんです?」
あの子は確かに呪縛から自由だった。

「1つだけ頼みを聞くって…血を小ビンにもらった。ラスティル聖女の解呪の術式を使って解いたの」
ラスティルという名に聞き覚えはない。だが、アニーはうなづいている。解呪法を編み出した聖女は実在するようだ。

「なぜ、陽の下で動けるのかな」
「仕組みまでは知らない。真昼は日陰でじっとしてた」
済まなそうに伏せられる目。理由など分からずとも活動時間が特定できればいい。それに、娘が答えられそうな、もっと大事な質問がある。

「東大陸から船で来たんですよね」
うなづいた娘の目を見つめる。
「ティア・ブラスフォード、君を呪縛しているのは、アレフの闇の子ですか?」

目は真っ直ぐなまま閉じられ、開かれた。
「公子《プリンス》か守護《ガード》か、分からない」
位階は明らかではない。だが、思ったとおり旧時代の生き残りだ。

「なぜ、暴れたんです」
「遠ざかっていったから。置いていかれるくらいなら殺された方がマシだって、焦って。でも、今は離れすぎて何も感じない」
不意に、娘がハジムを見上げた。
「ごめんなさい、あたしに目を治させてください」

「治せるもんならな。出来るのか」
不安そうなハジムにうなづいて見せた。テンプルの法術戦術の開発速度は目まぐるしい。10年前に学んだ治癒呪が時代遅れとなっていてもおかしくはないが。

イスに座ったハジムの眼窩に、娘が展開した方陣は、ひと目では解析できない複雑さだった。唱えた呪にも聞き覚えが無い。
娘が手を離し、ハジムが左目を開ける。

「見えない。こっちの目にはぼんやりした光しか」
「…赤ちゃんと同じだって。…新しい目に頭が慣れるまで一年以上かかる」
なんだか間延びした話し方だ。

「慣れるか。修行すればいいのか」
「赤ちゃんと一緒ってんだから、ガラガラで遊べばいいんじゃないの。最初は見つめて、次は目で追って」
アニーがふざけて、いないいないバァをする。

「メンター師が心配している。君を保護してホーリーテンプルへ送り届けるようにと通達が来てた」
まずはティアを送り届ける。そして我々が証人となって事実を伝える。

ヤツは独りになり警戒心も強くなっているはずだ。ティアが見捨てられたのなら、催眠術を使って向こうの位置を知る方法も使えない。4人で足取りを追うのはもうムリだ。副司教長に各教会を動かしてもらうしかない。

「夕食はまだよね。何か食べるもの貰ってくる。ルーシャも来て」
扉の前で手招きするアニーの目は笑っていない。
「ほら早く、5人分をこの細腕で運ばせる気?」

扉を閉めた直後に、ささやかれた。
「あの娘は嘘はついてない。でも正直じゃない」
「呪縛は解けていない上に、隠し事もしていると?何とかって聖女の解呪は可能、なのか」

「ラスティルは私の同期よ。優秀すぎる子だった」
「だった?」
「父親の分からない子を宿して聖女をやめた。テンプルは目立つ女を許さないから」
アニーがため息をつく。そしてルーシャの肩に手を置いた。

「しおらしい娘なんて、バカか演技のどちらかよ。
あのティアって娘はバカじゃない」

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