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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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不死の身を解き壊す破邪の光。
その源泉は術者の精神力と大地の力。

わずかでも痛手を軽くするために、アレフは宙へ跳んだ。そのままフードがめくれるのも構わず、駅を囲う柵を越える。

陽光が目を射る。距離感を誤り地面に叩きつけられた。足が異音と共に曲がり、肩がひしゃぐ。

肩は痛むが、足は無痛。
絶望しかけた。ホーリーシンボルから逃げ切れず消滅したかと。だがブーツの中に塊りは有る。失われたのは皮膚と肉の一部か。

今は傷を確かめている時ではない。人家と群衆から離れる事が重要。

身を起こし、這うように沼地へ向かう。再生をはじめた足が剥き出しの痛みに燃える。苦鳴を喉から押し出し、よろめきながら立ち上がった。無理やり足を踏み出す。地面から離れた手で物入れを探り、鋼の手甲をはめた。

追ってくる気配は2つ。
心は読めない。やはりテンプルの者か。

踏み締められない足が赤い泥にすべる。アシの茂みに転がり落ちた。生ぬるい水が跳ね上がる。沼の臭いと泥の感触に、少し冷静さがもどった。

ドルクの位置を探る。
従者はまだ駅の敷地内。ホーリーシンボルの輝きに立どまり騒ぐ人々を、必死にかきわけている。

獣人の目に映っているのは、柵の外に飛び出した2つの背中。剣をぬいた白マントの男と、滑稽な帽子の法服の男。騎士と司祭。

確か城に侵入したのは3人。あれがテンプルの討伐隊の基本編成だとしたら。
聖女はどこにいる?

「ティア!」
元気な気配は駅舎内。相変らず心は読めない。感じられるのはのっぴきならない緊張。おそらく彼女の戦いは始まっている。

今は助けに行けない。 
ティアが負けたとしても、最良の想定…裏切り者や破戒者ではなく、被害者として遇されるのを期待するしかない。
その為には少しでも遠くに離れ、ドルクが追いつくまで、滅ぼされず、追っ手を殺さないこと。

(全力で殴ればミスリルを編みこんだ法服やチェーンメイルなら切り裂けるはず。相手が怯んだスキにお逃げください)
アレフは眼前の敵に意識を向けた。

耳がかすかな呪をとらえる。これは炎か。対抗するために耐火の術式を組み上げる。同時に身を縮め、沼から一気に跳んだ。追尾してくる炎を空中で散らす。

着地点に降り下ろされる剣を手甲で受けた。
脇に焼け付く痛み。
騎士の左手にはナイフが握られていた。とっさに相手の胸を蹴って離れた。足に残ったのは異様に強固な感触。白マントの下はプレートメイル。兜と盾がないとはいえ、大仰な防具をつけてあの走力。獣人でもあるまいに。

避けきれぬ剣に対抗して対物障壁をまとう。障壁を貫く剣撃だけなら何とかしのげる。だが、騎士に気を取られると数歩後ろに控える司祭が放つ呪を食らう。それに脇の傷の治りは足より遅い。ナイフは銀かミスリル。しかも破邪の紋も施してあったらしい。

炎をかわした隙を突かれて、今度は左足を剣で貫かれた。動きが止まった瞬間、ナイフが喉に刺さる。脊髄をやられたのか手足から力が抜ける。そのまま地面に倒れた。

司祭がホーリーシンボルの詠唱に入る。上には馬乗りになった重い騎士。

とっさにベルトの物入れの水晶球に意識を集中した。湖を渡るため、地の結界が封じ込んであったはず。
短縮呪に組みなおす際、ホーリーシンボルを構成する地の呪も解析した。反転して展開すれば少しは緩和できるかもしれない。

だが、胸に向かって振り下ろされようとしている剣を見て、組んでいた地の呪で石つぶてを飛ばした。
同時に、金属音が響いた。上の騎士が呻いて転がり落ちる。銀鎧の背には斧によるヘコミ。司祭が突き飛ばされて詠唱を中断する。咆哮と共に褐色の塊りが目の前に現れ、喉のナイフを抜いてくれた。

「おのれ、獣人っ」
騎士の剣を器用にナイフで受けるワーウルフの背は大きく見えた。脊髄から異物が抜けたせいか、手足の感覚が戻る。
(ここは引き受けます。どうかお逃げください)
(だが、ティアは)
(あなた様が滅びない限り、わたくしども蘇ります!)
ドルクから放たれる吼える様な覚悟に、頬をはられた気がした。

足は癒えた。だが肺と喉の深手で声は出ない。呼吸が不用な身でも、呪の詠唱には呼気と声が要る。たった一つの取り柄を失った以上、体術では到底かなわぬ相手に勝つ手段はない。闇を味方に出来る夜ならまだしも、陽はまだ高い。

(すまない)
後ろを見ずに全力で走った。
追撃の火炎呪を身をていして防いでくれたドルクが、騎士に斬られる痛みにも振り返れなかった。胸を貫かれ、首を落とされた従者が事切れる瞬間も足を止められなかった。

夜になれば…必ず見つけ出して蘇生させる。その決意だけを支えに走り続けた。

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