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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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女性
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空気が冷たい。間もなく夜が明ける。細い月が沈み、東の空に赤い光が広がる。これは御者台にいるドルクの眼に映っている光景。その横に座って手綱をとる小さなぬくもりに気づいたアレフは、あわてて心を従者から引き離した。

窓を締め切った暗い車内に意識を戻す。向かいの席で仮眠を取っているのはティア1人。あの夜以来、御者台が娘の定席となっていた。車内に足を踏み入れるのは“来い”と念じた時のみ。

他のしもべの様に自ら喉を差し出すことはない。だが、抵抗もしない。目を閉じ歯を食いしばり、なぜ黙って耐えるのか。恐怖で何も考えられないのか、無気力にあきらめているのか、トモダチの身代わりをつとめる使命感なのか。
心を読むことを禁じられた以上、娘の胸のうちは推測するしかない。

かつて駅馬車として使われていたという車体。岩と低木が点在する荒野を抜けるには少し図体が大きい。重い車体を引かせるために買った馬は4頭。ドルクに習って馬の世話を手伝ううち、エステ、オエステ、スル、ノルテと娘は名づけたらしい。黒いタテガミを持つ茶色い馬。全て同じに見えるが娘には区別がつくようだ。

「なかなかスジがいいですよ、チコさん」
板ごしに娘の得意そうな息づかいと鼓動が聞こえる。心を繋がなくとも、言葉を交わさなくとも、近くに存在すれば情は移ると思い知らされる。不運におちいった弱い者を助けたいという素直な感情。当の娘にだけは絶対に気づかれてはならない。

それにしても信じられないのはティアだ。身の上ばなしを聞き、同じ作業をし、共に食事をしていながら、友情は全て演技。娘のことを解呪の検証材料としか考えていない。呪縛からの解放後、自力で生きてゆけるよう知識や技能を修得させてはいる。行き届いた配慮だが、そこに同情や共感はない。

我は我、他人は他人。冷厳で正確な思考。
ティアはおそらく他人のためには泣かない。
行動の源であるカタキへの憎しみですら、計算に包まれ本音が見えにくい。

娘へのティアの接し方を見ているうちに、私への態度も同様ではないかと疑いはじめていた。意地悪も皮肉も、人がましい感情を装った計算づくの言動。
惜しみなく与えられるテンプルの知識。恐怖を植えつけられた破邪呪の発動。根拠の無い自信を奪われた試合。ドライリバー城の跡地で限界を味あわされた事すら、目的にそった…。

(もう明けた?)
とつぜん心話を送られ、危うく悲鳴をあげそうになった。首をふってから、車内は暗すぎて見えないと気づいた。
「まだ」
ティアが口を手でおおって見せる。声を出すな、か。娘を食らう者と救う者が、親しく言葉を交わしては不信をまねく。

(今夜あたり着くよね)
(昼に馬車を止め、夕刻から馬に乗れば夜半に)
(本っ当に瘴気《しょうき》は大丈夫だよね?シーナンにトドメ刺しに行った連中は病気で死んじゃったんだよ。毛がぜんぶ抜けて体中アザだらけになって…呪われないよね)

(劫火《ごうか》が放たれてから35年。もともと瘴石《しょうせき》は重水を爆縮させるための物。量も少ないから数日も経てば…学ばなかったのか?)
(危ない呪法は全部かくされてた)
攻撃用の火炎呪を万人にバラまくテンプルだが、最低限の良識はあるらしい。

(たとえ影響があっても、私が滅びなければイモータルリングの恒常効果が健康体を維持します。城の宝物をあさりに行った者が1人も戻らないのは、おそらく別の理由)
(それが、旧友サンか)
どんな状態になっているかは分からないが、『何か』が残っているのは確かだ。

(もしもの時、呪縛が解けたニー…あの娘が帰れるよう2頭は馬車と残す。城へはエステとノルテで行く。でも乗馬用にも調教されてる馬、なんで3頭じゃないの)
(高いんです)
(なんであたしとあんたが2人乗り?)
(体重の問題です)

(なんで乗馬できないの)
(…今まで必要を感じなかった)
意外そうな顔をされた。ティアが乗れるのは、急患の元に駆けつける為。治療師や聖女に馬術は必須らしい。

(横鞍《サイドサドル》の女の腰にしがみつく気?かっこ悪いよ)
つまり同乗して欲しくない、ということか。ため息ぐらいついてもいいだろう。車輪とスプリングの騒音にまぎれて人の耳には届かない。
(なら、私自身の足で走ります)


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