忍者ブログ
吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
| 管理画面 | 新規投稿 | コメント管理 |
ブログ内検索
最新コメント
[09/13 弓月]
[11/12 yocc]
[09/28 ソーヤ☆]
[09/07 ぶるぅ]
[09/06 ぶるぅ]
web拍手or一言ボタン
拍手と書きつつ無音ですが。
むしろこう書くべき?
バーコード
カウンター
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
プロフィール
HN:
久史都子
性別:
女性
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「ようこそ、サウスカナディ領へ。アルフレッド・ウェゲナー、滅びそこないの血の盟主」
夕日を浴びてそよぐ芦原の向こうから、芝居がかったしぐさでティアが差し招く。
地から上空へ伸びる極光に似た障壁が左右に割れる。境界を越えるための単純なマジナイ。それでも、今は助かる。

源流である大湖が雨季であふれた時のみ流れる涸れ川。とはいえ油断をすれば、周囲の耕作地をうるおしている地下水の流れに力を削られる。陽が沈みきっていない今、エイドリルとシーナンの水利権争いが起源などという、古くさい結界にまで力を削がれては、さすがに辛い。

乾いた川床を踏み越え、まっすぐ対岸へ歩をすすめる。
背後で結界が閉じるのを感じた。

このまま夜半まで歩き続ければ、ネラウスの町に着く。ティアの言うような廃墟とは思えない。たとえ禁呪で焼かれたとしても、花が咲き虫が戻れば人はこうむった痛手から立ち直り、しぶとく生活の場を再建する。昔のままの賑わいは望めなくとも、半月の旅に耐えうる馬車を仕立て、必要な物資を購入することは可能なはずだ。

大陸をつらぬく街道から外れてサウスカナディ城へ立ち寄り、旧友の安否を確かめたい。

地図上ではわずかな寄り道。だが、本当に石と砂に埋もれた砂漠を行くとしたら、時間的にかなり遠回りとなる。
ティアが大望を果たす時は大幅に遅れるだろう。その埋め合わせとして、あらかじめ用意していた取引材料は、ホーリーシンボルをより早く発動させる短縮呪だった。

滅する運命が避けられぬものなら、発動の遅い術でなぶられるより速やかな消滅の方がまだマシだ。我ながら後ろ向きだが、ティアが納得しそうな報酬を他に思いつけなかった。

だが、宿に戻った時、ティアの方から思わぬ提案があった。

「1つだけ、あんたの言うこと聞いてあげる。その代わり、これからあたしが頭に思い浮かべる事が、可能かどうか教えて」

読まされたのは黄ばんだ紙に共通文字で書かれた術式。関心のある事柄を見たまま記憶する者はたまに居るが、ティアもその1人らしい。だが紙をめくるペースが速い。全てを理解するまでにいく度か意識的思考の中断を求めた。

「だから男ってイラつく。物分り悪いし、思考がまだるっこしい!」
性差の問題ではない。表音文字のみの文章に慣れていないだけだ。表意文字にいちいち換えるのに時間を要するのだと反論しかけて、やめた。表層でもティアが思考を読ませてくれることはマレだ。なにより“言うこと聞く”などと譲歩したのは初めてだ。

「加害ヴァンパイアの血を触媒とした、治療者との一時的精神結合を用いての被害者の解呪。条件が整えば理論的には可能だろうが」
「条件って、なに?」
「治療者への信頼。そして互いの愛着が薄いこと…加害者、被害者、双方の」
血の絆を他者の割り込みによって断ち切られたなら、心の一部を引き裂かれるような痛みと喪失感を覚えるはずだ。想像しただけで気分が悪くなった。

「そして失った分の生命力をしもべに与える手段も用意しなければ、心を切り離す術式に耐えられない者もいる。だが、なぜ今さら」
術式を学んだのは代理人だった父親を解放するためだろう。だが町の者の手で殺され、死体も焼かれた今となっては無意味なはず。

ティアが心に封をかける直前に、女の声と赤い扉が視えた。
不用意に上げさせた悲鳴を聞かれたか。

通いの女中が朝の家事を終えて去った静かな家で、独り繕い物をしていた婦人。予定より早く来てしまった招待客をもてなしているつもりで、茶器と湯の算段をしながらぎこちなく笑んでいた。

招いておいて名を思い出せない罪悪感とあせり、わずかな疑念。
それらが消えるまで穏やかに客を演じ、時おり瞳を見つめて会話を続けても良かった。だが、どうせ記憶は封じてしまうと少しばかり性急に事を運んだ。
中庭に面した建物は無人。物音も声もドルク以外には聞こえないと。

渇きをなだめる為だけに、行きずりで襲った贄。最初から捨て置くつもりでも、いま彼女を奪われるのは辛い。同化しきれない血と共に鮮明な記憶と体温が体に留まっている。
「彼女を術式の検証に使うというのなら、触媒は与えられない」

「今、解くなんて言わないから。あんたが滅びなかったらのハナシ。風呂入ろっと」
風呂と並列して不吉な事を言われた気もしたが、とがめだてするより、部屋を出て行こうとしていたティアの背中に、サウスカナディ城へ行きたいと希望をぶつける方が大事だった。
なにより昼間に、感情的に受け入れ難い術式を考えると余計につらい。

暮れゆく空で数を増す星を見上げながら、地平の町を目指して歩いている今の方が、気もまぎれて思考もまとまる。

こちら側の愛着は時間が経ち、他の人間からも血をすする内に薄まっていく。人の方の愛着は…もしかすると中央大陸においては、淡雪なみに、儚《はかな》いかも知れない。

300年位前、教会が共通文字と共に教義を広めはじめてから、瞳の力が効きにくい者が増えた。血の絆もかつての様に“絶対”と言い切れまい。

1つ戻る   次へ

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
NAME:
TITLE:
MAIL:
URL:
COMMENT:
PASS: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
あぁ、こちらの人物はイメージ沸き易い(汗)。
ぶるぅ URL
 やはり、こちらの方だったのですね。コメントを頂いたその日から、ここでは・・・とは思っていたのですが、確信が持てなくて・・・。
 ウチのと違って、キャラクターが生き生きしていて、場景も掴み易い文章ですね。勉強になります。
2008/01/29(Tue)02:46:14 編集
だってうちは
久史都子
近未来日本かパラレル日本かはともかく……現実に近いけれど異なる世界を生み出して、サイボーグと彼を支える人々の哀歓を紡ぐ、ぶるぅ様の『ND -National Defender-(ナショナル ディフェンダー)』に比べれば、ネタもキャラも月並み。細かい描写要らず。
ならばせめて漢字を開き、カタカナをなるべく使わず。タイトルすらも夜の情報誌臭い「Night Walker」から日本語に変更。流血ダメな人&小学校低学年よけに漢字を散りばめました。
そうそう、
この記事の表音文字と表意文字のくだり、National Defenderのお陰で思いつきました。英語赤点の私はヤフー辞書で検索するまで、タイトルの読み方と意味がサッパリ。もし英語で、いや例え日本語でも、ローマ字やカタカナだけで書かれた医学論文を速読させられたら……私なら気分どころか命も危ういっス。
2008/01/30(Wed) 01:09
≪ Back  │HOME│  Next ≫

[115] [116] [117] [118] [119] [120] [121] [122] [123] [124] [125]

Copyright c 夜に紅い血の痕を。。All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog / Material By Mako's / Template by カキゴオリ☆
忍者ブログ [PR]