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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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女性
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目を狙ってきた左の人差し指と中指をつかんで折り、男を馬車の座席に押さえ込む。脂汗が吹き出す顔を覗き込んでから、喉に口付けた。

「おい、どうした。シクじったか」
熱さと甘さに陶然となりかけた瞬間、現実へ引き戻された。味わいかけた甘露をしぶしぶあきらめる。振り返り、馬車のステップに足をかけて覗き込んでいる邪魔者をにらむ。こわばった顔で他人の食事を無遠慮に見物しているホクロの目立つ男を視線の魔力で縛った。

他の者が集まってこないうちに、取り込んだ血をよすがに行商人だった男を強引にしもべに仕立て上げる。両手と足の痛覚を奪い高揚感を植え付け、意識を支配下に置いた。
「このにいさんが逆らうんで、左手の指を2本ばかりね」
それでいい。相手は14人。もう少し時間が欲しい。

目に映っている事実を受け入れられないホクロの男には、楽しい夢でも見ていてもらおう。襲撃は成功。仲間に負傷者はいない。少し痛い目をみれば素直に手形に署名する、扱いやすい裕福な人質も確保したと。
「大事な金ヅルだ。殺すなよ」
ホクロの男は馬車から離れ、案じている仲間に笑顔を向けた。

「気はうしなったが生きてるよ」
叫び返したあと、役に立てたかと問う視線に悦びで返す。ルナリングを外し、名演を終えたしもべの左手薬指にはめてやった。
(よく出来ました。この指輪、欲しがっていたね。しばらく預かっておいてもらおう)
恒常的な魔力の消費がなくなり、久しぶりに解放された気分になる。

(しばらく耳目を集めておけますか?)
術式の核となる見えない使い魔を人数分組み上げながら、慎重にティアに問う。
(ソレ、さっきからやってんだけど…脱ぐもんあと3枚しかないよ)
手にした肌着をカシラに向かって高く放り投げながら笑顔でいるのは幻惑のためか。

「なんだ…こりゃ紹介状か。
わざわざ下着に隠さんでも、こいつを見せりゃ駅馬車に乗れただろうに。物好きな聖女さまだな」
封書に全員の関心が集まった瞬間、しもべの記憶を元に賊を特定して、使い魔を飛ばした。

後頭部にしがみつかせた核を基点に、幻痛か眠りをと考えていたが、やめた。あの手の行為を常習としている者たちこそ、さっきの恐怖を味わうべきだろう。床のカバンから取り返した術具を使い、術式を完成させる。
だが…無抵抗な人間をティアが虐殺するのは見たくない。

(今から彼らを動けなくしますが、絶対に殺さないと約束してください)
(何よそれ。連中があたしや他の娘に何を…ケガしたり殺された人がいるの、分かってるよね?)
(お願いします。殺さないと約束してください)
残った最後の衣類に手をかけたティアの心の中に、さまざまな思いを飲み込んだ果ての返事を読み取った。

改めて呪に意識を集中して、発動させた。
彼らの所業が産んだ闇を複製して送りつけた直後、悲鳴の合唱があたりに響いた。誤って巻き込んだ者がいないのを確認してから、彼らの手足の神経束に圧迫を加える。数日間、ヒジとヒザで這うことになるが、今は過酷な気候ではないし、川も近い。死ぬ事はないだろう。

「ご無事ですか?」
馬車の扉をあけたドルクの向こうに、夕空を背に、脱ぎ捨てた衣類のホコリを払い、落ち着いて身につけているティアがいた。出てみると、転がっている賊を見つめている他の馬車の乗客や御者たちは、ひざを抱え固まっている。手当てを受けられないまま引き摺り下ろされた御者のヤケドはかなりひどい。

助からない馬を2頭処分し、回復呪をかけた負傷者を荷馬車に寝かせた。生き残った馬と勤めを果たせる御者、そして乗客たちを、使える馬車に振り分ける。街へ戻れるよう手はずを整えているうちに、完全に日が暮れた。馬車のランタンだけを頼りに戻る彼らに、青いドレスの女の手荷物を託した。

残ったのは乗ってきた乗合馬車と、中で愛想笑いを浮かべているしもべ。そして荷の一部であった布地を割いた仮の戒めで、ひとまとめにされた賊ども。

ティアが連中を縛り上げる際、何かが折れる音や、柔らかいモノをしつこく蹴る音がしたが、つとめて聞こえないふりをした。楽しそうな笑い声の合い間に聞こえる、男性としての誇りを踏みにじる罵倒にも耳をふさいだ。殺さないという約束を守ってくれているだけでも、よしとしなければ。

だが、
「ドライリバー城、見たいんでしょ」
そう呼びかけられては振り向くしかない。

「ここにさらわれた人。でもって娯楽の部屋。井戸に台所、見張り台、カシラの部屋に手下の寝場所。馬屋に干草置き場に倉庫。飯炊き女や賊のイイ人気取りバカ女も含めて、留守居は約30人だったかな、前は」
ランタンの光の下で地面に描かれた地図とはいえ施設が少なすぎる。賊のねぐらは、広大なドライリバー城のはずだ。

「思い出はアテになんないわよ。この見取り図と馬車の中の男から読み取ったモノが真実。それと、闇討ちならあんた程度の腕でも勝てると思うけど、大勢をさばくのはまだ無理よね。なら勝負は月が出るまで」

愉快そうな笑みがティアの顔に浮かんだ。
「賭け、しようか。
月が出る前にあんた1人で全員たおせたら、砦の連中の命も取らない。だけど、倒しきれなかったら…あたし殺っちゃうから」

ならば、あまり時間は無い。
「近くまで馬車で。ようすを見に来た者を止めたら、城に向かう」

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