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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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女性
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「にいさん、足元のカバンをゆっくり開けてくれるかい。それでポケットの中身をひとつひとつ出して全部カバンの中に入れる。外のお仲間と無事に再会したかったら、正直にな」
留め金を外すと、バネ仕掛けでカバンは四角く開いた。中には商売道具とは思えぬ酒ビン一つ。手に入れた金品を値踏みして山分けする際、一杯ひっかける習慣らしい。

ポケットを右手でさぐろうとすると、左の指先でつまんで出せと耳元で怒鳴られた。では、お言葉に甘えて不器用にぎこちなくモタついて、時間稼ぎをさせてもらおう。

最初に、金袋をカバンに落とした。ビンにぶつかり滑り落ちる重い金属音に息を荒くした男は、金の一部を仲間から隠し切る方法がないか考え始めた。ベルトの物入れから出した水晶玉に多少警戒したものの、何か出し控えた物がないか、確かめる事も忘れている。

「外せるうちに、その指輪も入れといてくれ」
「手のスジを切ったら指が伸びなくなるからか」
「にいさん、察しがいいねぇ。手も組めなくなるから司祭様になるのは諦めて、マジメに家業を手伝うんだね。オレは優しいから、左手だけにしといてやるよ。しばらくは痛くて転げまわるかも知れんが、すぐに片手が動かない生活にもなれるさ」
金を払えば無事に解放…とは、いかないらしい。

「それに金持ちなら腕のいい治療師を呼べるだろ。丸まった肉を引っぱって縫って、もう一度手を動くように出来るような名人をさ」
スジを切っても、骨を一本折るだけでも、人は痛みで動けなくなる。馬を止めるために彼らが火球を使ったように、ヤケドを負った生き物も満足に動けなくなる。殺さなくても動けなくする方法はある…生き物ならば。

外から感嘆の声が上がった。
「おっかねぇ聖女サマだな。隠しナイフかよ。その太ももと二の腕の得物も外すんだ。いきなりチョッカイかけなくて良かったぜ」
カシラと思しきダミ声だった。ナイフを突きつけている男の心に、ティアの半裸がよぎる。妄想にすぎないが、おそらく外で彼女は下着姿をさらしている。

「女性をはずかしめる気か?」
「安心しなよ、俺らは若い女にしか興味ないから。にいさんがいくらキレイでも剥いたりしない」
ティアなら素裸でも、不用意に近づいた相手を殺しかねない。為し合いに使っていた技を生身の人間が受けたらひとたまりも無い。いや、その前に、彼女が受けるはずかしめは…

ティアの心に接触をはかる。
いつものように拒絶されない。だが、なんだ、この妙に高揚した感情は。

(攻撃呪は使えないと思われてるから、喉は潰されないと思う。殴られたり締められたぐらいなら、すぐ回復できるよね、指輪外さない限りはさ。一通り相手して、こいつらが油断したあたりで殺る予定だけど…今度は邪魔しないよね)

昂ぶった心話の背景には男性のような攻撃欲と結びついた衝動。痛みと憎悪と復讐の感情に透けて見える地獄のような日々。過去の体験と取り囲む男たちを重ね、彼らの死の瞬間を妄想しながら満面の笑みを浮かべるティアの内面に引きずり込まれそうになり、慌てて心話を絶った。

ティアは約3年前、若い女の身でホーリーテンプルまでたどり着いた。この中央大陸を旅して。最初は男装するなどといった知恵も働かず、戦う力もなく、守る者もないまま。それがどんな旅だったか…

「にいさん、そんなに震えんでも、命までは取らんから」
男ののんきさに失笑しそうになった。この男は幸いだ。ティアが身に飼っている闇と、憎悪に裏打ちされた凶暴な意思に比べれば、世間知らずの死人が抱える闇など高が知れている。

「命まで取るわけにはいかないか、いくら悪人でも」
ティアと戦った時、初めて食らったのは確かヒジ。そして決め技の前にカカト。
アバラと足の甲なら、命に別状はない。

「あなたをソデにしたイルマさんから聞きませんでしたか。薄い髪色をした者は村を出ても正業につけず、夜に生きるしかない。その昔、年頃になっても髪の色が薄いままの者は、魔に魅入られ闇に飲まれるさだめを負っていた。そんな不吉な昔話のせいで」

「にいさん、いまは昔話なんか…
なんでイルマの事を」
男が動揺した瞬間、右足を素早く振り下ろす。ブーツの下で、骨が砕ける嫌な感触がした。手が弛んだ直後、左ヒジをわき腹に叩きつけ、そのまま身をひるがえして男に向き合う。叫びかけた口を押さえ、左手でナイフを握った腕を掴んで握り締めた。

男の手からこぼれたナイフが座席に突き立つのと同時に、完全に太陽が地平に沈んだ。
「やっと私の時間だ」

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