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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
性別:
女性
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「ところでにいさん、どこまで? そっちの聖女さんに連れられて、ホーリーテンプルで司祭になる修行されるんですかね。学問が多少できなくても、寄付金が多ければ、楽に通るらしいですなぁ、選抜試験とかいうやつは」
この行商人を装った男と仲間の狙いは、私の持つ金か。

ドルクに心話で伝え、男の手首をつかもうとした瞬間
(今はおやめください。最初からわかっておりましたから)
従者の静かな返答に驚いた。ティアに視線を向けると、軽蔑したような表情の中で、目だけが真剣に光っていた。

(そいつにナイフ突き立てられたくなかったら、あたしの質問に「いいえ」って答えんのよ!でも、言ったことの“実行”はすぐにしてね)
心話の意味を問い返す前に、ティアの言葉が始まった。
「そのバカ、ほんとデキが悪くてさぁ、初歩の術も全然覚えられないの。あたしが何度やってみせてもダメ。昨日教えた耐火の術、せめて呪の暗記ぐらいはしたんでしょうね?」

「いいえ」
言われたとおりに答えながら、ティアのため息に顔を伏せた。
「こうよ」
ティアが印を結び耐火の呪を唱え始める。だが、実際に力は発生していない。
咳払いに促されて、馬車の四隅に施されていた耐火の紋を術の基点に、馬車全体を包む障壁を呪なしで作り上げる。
(馬も包む!)
注意されて、急いで障壁の範囲を広げた。

「ねえさんは術の方が得意なんですか」
「これぐらいならね。でもあたしはまだ見習いだから、簡単な術しか使えない。けど、癒しの手ぐらいは…オジさんはどっか悪いところない? 次の駅で診たげるよ。治せる病気は少ないから、格安で」
男が愛想笑いを浮かべ、首を振る。

やがて、背後から複数の馬蹄の響きが迫ってきた。ななめ前方のなだらかな岡にも複数の騎影が夕日の中に姿を晒す。先頭をいく6頭立ての駅馬車が速度を上げる気配があった。4頭立ての荷馬車のうち、荷の軽いものが後に続くが、荷の重い馬車や、この乗合馬車の様に馬の頭数が少ない、後部の数台が遅れ始める。

「なんで、数日前に襲われたばかりだから、今回は大丈夫のはずなのに」
くすんだ青いドレスの女が、車窓から身を隠すように頭を抱える。では、街道での馬車の襲撃は日常の出来事なのか。ここを管理する代理人はなぜ連中をほっておく。城の衛士を呼べない理由でも…そうか
『庇護者を失った』とは、こういう意味か。

ここでは、個々の力と知恵と運が全て。法の保護など無い、自由の大地。

前を行く馬車群と、遅れだした後方の一団の間に火の術が炸裂する気配があった。あたりが輝き、遅れて音が襲う。熱さは耐火の呪で防いだが、馬は棹立ち、2台の馬車が衝突し、今乗っている馬車も急停止した。

駅には護衛が数人いたはずだが、彼らは前方の荷主か客に雇われた者達だったようだ。後備に就く者は見当たらなかったし、助けに戻って来る様子も無い。

不意に横の男に羽交い絞めにされた。首筋に刃物の感覚がある。
「聖女さん、呪を唱えるのはしばらく遠慮してもらうよ。外にいる仲間には、さっき見せたの通り、術に詳しいやつがいる。使ったらすぐ分かる。あんたが護衛してるこの坊ちゃんが、どうなるか」

(そいつらの仲間の術者は、たぶん司祭崩れ…分かるといってもテンプルの術だけ。大掛かりな術式でなければ、あんたの魔法は気づかれない。あいつら、殺れるよね?)
ティアの物騒な心話で、かたまっていた思考が戻る。刺されれば痛いが、それで死ぬほどヤワな身ではない。落ち着いて考えれば、たいした危機とはいえない。
だからこそ、術で人を殺せといわれても
(出来ない)

「あんた、通じてたの?」
すすり泣きの合い間に、くすんだ青いドレスの女がにらむ。
「悪いなぁ、コイツと一緒の便でなければ、アネさんは無事の道中だったのに。諦めて、その青玉の指輪よこしな。それてカンベンしてやる。あんた馬車代を値切ってたし身代金とれる身寄りもなさそうだ。売ってもたいした金にならんからな」

指輪を置いて、女が馬車を降り、泣きながら来た街道を駆け戻っていく。馬車を囲む一団は女に下卑た野次を飛ばしたが、そのまま見送った。女が下着に隠した全財産を、幸い男は気づかなかったらしい。

「そっちの危ないオノをもった兄さんは、得物を外に放り出してから、馬車を降りてくれるかい。その次は聖女さんだ。へんなマネはするなよ」
見慣れない大きなオノをベルトから外し、左手で車窓から外へ投げ落としたドルクが馬車を降りていく。

(全員の位置は特定できてるんでしょ。殺ってよ!)
席を立ったティアがにらむ。
(金を払えば無事に解放してくれる。ならば抵抗しない方がいい。彼らはリチャード・ウェルトン名義で預けた金貨しか狙ってない。ほぼ同額の金が別の名義で幾つか預金してある。数日の遅れが出るだけで、旅に支障は無い)

「そら、聖女さん急いで」
ため息をついたティアが荒々しく馬車を降りる。

(ですが、アレフ様…その男の眼には黄玉の指輪は映っておりますよ。希少な賢者の石とは分からなくとも、お宝には見えましょう)
ドルクからの心話に、慄然とした。
赤い円盤となって地平に向かってはいるが…まだ、太陽は沈んでいない。

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