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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「たとえ半日のご利用でも、お昼寝しかなさってなくとも、一日分の料金をいただくことになりますが、よろしゅうございますか?」
差し出された明細には、宿泊費とほぼ同額のワイン代が記載されていた。船便代、間に入った取次業者、宿の正当な取り分だけでは、出荷価格の20倍という値段の説明はつかない。

「あの程度の酒に、黄金が積まれるか」
味は分からないが香りの変質は感じた。揉めるのも面倒なので、額面どおりの金貨は積んだが、皮肉で口元が歪む。

「あちらから来た方には不思議でしょうが、東大陸のものは何でも高値がつくのですよ。古い闇が残る禁断の地。風雅と退廃への憧れ。そんな形の無い値打ちが上乗せされます。
お客様も、花街に繰り出せは妓女がほっておきますまい。その言葉と髪ならば」
世辞と聞き流すには何か引っかかるが、亭主が素性に気づいている気配は無い。

衣類や日用品をつめた鞄を手に亭主らに見送られて宿を出た。
日は西に傾き、街は長い影で彩られている。家路を急ぐ人々を、身をはすにして避けながら、賑やかな大通りを抜けた。柳の揺れる河岸をたどると、湿気のせいか馬糞の臭いが故郷より強い馬車溜まりに、ほどなく行き着いた。

長い街道の始発点には、装備が不ぞろいな数騎の護衛が水場まわりでたむろしていた。高い柵と門に守られた広場には十数台の荷馬車や乗合馬車が並んでいる。その最後尾、2頭立ての乗合馬車の前に、新たな荷物を背負ったドルクと、スタッフと髪を陽に輝かせて待つティアが立っていた。

御者の手で、屋根に鞄が上げられ固定されるのを確認した後、乗合馬車のステップに足をかけようとして、見えない障壁を感じた。馬車の4隅に刻まれた赤い精霊の紋。指で耐火の簡便な方陣をなぞった時、教会の鐘が12回ひびいた。

出発の時間だと御者台から急かされ、3人掛けの席に身を落ち着ける。横にはドルクが座り、前には青にび色のドレスを席の半ばまで広げた婦人とティアが掛けていた。扉を閉めようとしたした時

「待ってくれいっ」

駆けてきた勢いのまま跳び込んできた行商人風の男に、窓際を奪われた。詰め物の薄い席に尻骨がぶつかる音が響く。顔をゆがめ呻きながら扉を閉めた男の大きなため息に、ムチの音が重なり、馬車が動き出した。揺れるたびに、男が床に置いた鞄がヒザに触る。

汗を手布でぬぐいながら何度も謝る男に、儀礼的に笑顔でうなづいているうちに、話しは川に沿って大きく曲がった道の景色や今年の麦の出来と、脈絡なく続いていく。
赤い夕日が差し込む車内で話しているのは、行商人風の男ひとりだった。

「にいさん、海を渡って来なさったね」
不意に何か探るような目で見つめられた。さっきまでと同じように、あいまいにうなづきながら、愛想の奥に、油断のならない秘めた何かを感じた。
不自然な態度にならぬよう控えていた読心の手を、触れている右肩から心の表層に伸ばす。

「氷の海に住む獣の毛皮や、ナニを乾燥させた精力剤を、若い頃に商ってましてね。花模様の海獣の皮をしょって山越えて市まできてたオバさんが、にいさんみたいな薄い髪の色してました。そうそう、猟師してるダンナも子供も同じ髪。村のモンはみな銀髪なんだとか」
言葉と心に浮かべた光景が違う。
海獣の皮を男が見たのは、入れあげた銀髪の女のエリ飾りとしてだ。口にしているのは、その女から寝物語に聞いた話。

「その村のもんは、濃い髪色のモンと結婚しても銀髪の子ばっかり成すとかで。嫁いだ女はいいが、村の外へ婿にいった男は浮気ができんと笑うてました。にいさんも浮気のできんタチですなぁ」
「私は……銀の髪の子が生まれるとは」
優勢の因子がどうのという前に、子をなす事はおろか共寝も出来ない身に言われても返答に困る。

「にいさんは猟師さんには見えませんな。もしかして氷の海のモノをお商いで?
やっぱり、商売でひと財産なしたオオダナの跡取りさんでしょう。私も、もう少しあっちでガマンしてたら、ひと財産くらいは…若気の至りいうやつで、広い中央大陸の方が夢を叶えられそうな気がしましてね。有り金はたいて船に乗ったんですな」

男はしゃべりながら売掛帳とりだし、隠すようにつけ始めた。書いているのは金額には違いないが…人の値段だ。同乗者を値踏みし算定し終えた男がうなづき、白い手布を口に当てる。

「失礼して…」
窓から首を出し、ハナをかむふりをしながら、馬車から紙片と手布を飛ばした。
「ああ、買ったばかりの…」
白々しく、残念そうに首をふる。

男の内と外の差に戸惑い、紙に書き付けた金額の意味を考え…とんでもない結論に達した。
この馬車は間もなく襲撃される。
乗客の身柄と引き換えに、金をせしめようとする一団に。

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