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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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嫌な視線を感じる。あかがね色の布に金貨の山を染め抜いた両替商へ入った時からだ。フトコロの重い皮袋と腰の剣を意識しながら、ドルクは素早く振り向いた。目に映ったのは、森の木よりも密集したうごめく人の集まり。全員が怪しく、そして無害にも見える。視線のヌシがどの顔か特定できない。

まっすぐ宿には戻れない。なるべく大通りを歩いて、間口と窓の大きい店に入り、相手を特定する。そして出来ればやり過ごす。気を配りながら、適当な店を探していた時、軒先から下がるハーブの束をくぐって、薬屋から出てきた見習い聖女と目があった。

「あのヤブ治療士、銀貨50枚じゃどうヤリクリしても半月しかやってけないっての」
薄焼きパンに紫や赤のジャムを盛り上げ、口に放り込み、香茶で飲み込む。その作業の合い間に、グチとも悪口ともとれる様々な話題がサンゴ色の口唇から飛び出す。こちらの言いたい事はあいづちに混ぜるしかない。
この娘と共に食卓を囲むようになってから、ずっとこの調子だ。

「あ、消えたね。ロコツなのは」
「…他にも居ますかね?」
香茶に発酵バターをひとさじ投げ込みながらティアがうなづく。
「テンプルの法服みても諦めないなんて、いい度胸よね」
見習いの小娘でも、法服の背景には巨大な富と組織と権威がある。それを物ともしない引ったくりというのは、異様だ。

「やっぱ、裏で繋がってんのかも」
中央大陸で表向き秩序を司るのは教会とテンプルの戦士。実際は有力者や商人たちが雇う私兵や用心棒が抑えている。それらが強盗や人さらいと結託しているとなると、キングポートの裏に広がる混沌と闇は根深い。

「儀礼的なショートソードだけってのがマズいんじゃない? 東大陸じゃ過度の武装はご法度だけど、ここは何でもアリよ。1人か2人で刃こぼれしたり脂で鈍るお上品な得物以外に、なんか心得ないの?」

ティアの視線の先には、錆びた大剣を看板代わり立てた、薄暗い武器店があった。
「弓とオノならば少々」
「じゃ、いってらっしゃ~い」

満足のいく弓はなかったが、革鞘つきの大ぶりな手オノを買って腰に吊った。エラの張った店主の勧めで鉢金と鎖の胴衣も買う。ティアの言葉を信じるなら、敵は複数。乱戦となるなら守りも固めておいたほうがいい。

衛士としての不死は、負傷した直後の能力低下までは補ってくれない。治癒で主の力を消耗させ、共倒れになっては何のための守護か。

戻ると、軽いお茶と尾行者を諦めさせる目的で立ち寄った露店のテーブルに、川魚の揚げ物と玉子ソースの麺が並び、早めの夕食の態となっていた。

「キングポートの名物なんだって。旬のアカスジ魚の揚げ物」
ティアは幸せそうな顔で、薄紅色の魚肉のかたまりを口に押し込んでいる。
「本当の旬は3ヶ月先ですがね」

「リックはまだ伏せってんの?
可哀想だよね。旅の楽しみなんて景色半分、残りは土地それぞれの料理なのに」
「この街では、食事をする気になれないと」
「船ではけっこう食い散らかしてたじゃない。昨日はすんごいビビってたけど、そのせい?」

船のほぼ全員が食堂周辺に集まり注視する中、上甲板に昇った2人のうち、1人がどうにかなれば疑惑は確信になる。脱出しようにも未熟な風の精霊は、主を岸へ運ぶどころか水中に落としてしまったろう。

主が抱く恐れは、今まで個人…ティアの浄化呪や妄執そして暴力に対してだった。普通の人間の集団に対して、深刻な恐怖を覚えたのは昨夜が初めてのはず。悪い傾向ではないが、いささか臆病すぎる気もする。

「フトコロの大金で馬車借りて、携帯食料も買うつもり? 紹介状あるから、駅馬車とか隊商に無条件で混ぜてもらえるよ。夕方の便で次の町までドライブしちゃう?」
敵討ちを望むティアとしては、一刻も早くモルを追いたいのだろう。
「申し訳ありませんが、リック様がドライリバー城をご覧になりたいと。それに今度の旅には馬車を操れる者を同行させたいので、これから紹介所に寄らねばなりません」

ティアが笑みを浮かべるのはナゼだろう。
「あそこって、出るのよねぇ」
「幽霊でございますか」
「もっとおっかないモノ。2人前の食事でたるんだお腹が、ギュっと引き締まるような」
それも、どこか引きつった、痛そうな笑みを。

「身寄りの無い使用人は探さなくていいよ。人間が周りにたくさんいると食欲なくなっちゃう神経の細い怖がりさんでも、遠慮なく楽しめる名物が城跡にはびこってるから」

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